診療支援
治療

抗結核薬による精神症状
mental disorders due to antituberculosis
石井映美
(筑波大学医学医療系・保健管理センター・精神科)
水上勝義
(筑波大学大学院教授・人間総合科学研究科)

◆疾患概念

【定義・病型】

 肺結核や,一部の非結核性抗酸菌感染症の治療中,使用した抗結核薬と何らかの因果関係が疑われる有害事象として精神症状が出現した場合,これを抗結核薬による精神症状という.直接的に精神症状をきたす場合と,それまで継続して服用されていた抗精神病薬の血中濃度を下げる形で,精神症状をきたす場合がある.また,抗結核薬の併用により副作用が増強する場合もある.

【病態・病因】

 抗結核薬の主な副作用としては肝障害が挙げられるが,ほかにせん妄,不眠,不安,気分障害などの精神症状が現れることは,広く知られている.現在わが国で抗結核薬として使用されている薬剤は10種類にすぎないが,その約半数に,副作用として何らかの精神症状が挙げられている.一般的には,意識障害を呈するものが多く,それに伴うけいれん,精神運動興奮や,認知症様症状の報告がみられる.

 個々の薬剤における有害事象としての精神症状を表1に記す.報告としてはイソニアジドに関するものが多く,エタンブトール,リファンピシンがそれに続く.サイクロセリンは使用される症例が限定されるが,近年わが国でけいれん,意識障害を伴う激しい精神症状が報告されている.また,汎用される抗菌薬ではあるが今日結核治療にも有用なものとして,ニューキノロン系薬剤やリネゾリドがあり,これにも精神症状の報告がある.

 抗結核薬は,耐性菌を出さないように,数種を併用する方法をとるが,このために精神症状をはじめとする有害事象が増強される可能性がある.

 また,概して結核という疾患自体高齢者に多いため,どの薬剤を使用する際にも,肝の代謝能や腎の排泄機能低下による影響に,留意する必要がある.

A.イソニアジド

 結核治療における,基本的な薬剤である.イソニアジドの主な副作用は肝障害,消化管症状であり,精神症状の出現は0.1%未満とされる.しかし,抗結核薬のなかでは

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