内分泌疾患に伴う精神症状は表1図に示したように多様であると同時に,疾患特異性に乏しい.肝心なことはこれらの精神症状をみた際に鑑別診断として,内分泌疾患の存在をイメージできるかどうかにある.本項では比較的頻度の高い甲状腺疾患について述べる.
甲状腺機能亢進症に伴う精神症状
◆疾患概念
【病態・病因】
甲状腺ホルモンの過剰がどのように脳に作用して精神症状をきたすかはわかっていない.
【疫学】
甲状腺機能亢進症は女性に3-7倍多く,20-40代に多いが精神症状の発現頻度は明らかでない.
◆診断のポイント
軽躁,興奮が多い.身体症状として,若年者では手指の振戦,頻脈,体重減少に,高齢者では心房細動に注意する.
◆治療方針
A.治療方針の概要
チアマゾール薬による薬物療法が標準である.
B.薬物療法
[処方例]
精神症状が出ている例は重症例が多いため,チアマゾール薬(メルカゾール)30mgから開始する.また併せてβ遮断薬を使用する.興奮性の精神症状が強い場合には抗精神病薬の併用が必要なことがあり,甲状腺機能が正常化してからも長期に必要なことがある.
[処方例]
下記1),2)のいずれかを用いる.
■患者・家族説明のポイント
抗甲状腺ホルモン薬の最も重大な副作用は無顆粒球症である.発熱,咽頭痛がみられた際にはすぐに受診するように指導する.
甲状腺機能低下症に伴う精神症状
◆疾患概念
【病態・病因】
甲状腺ホルモンの脳への作用機序が不明であるため,成人での慢性欠乏がどのように脳機能に影響を与えていくかは明らかでない.重症例では,甲状腺ホルモンの低下による換気不全から低酸素血症が持続することによって脳障害が起きる.甲状腺自体に障害のある原発性甲状腺機能低下症と,下垂体や視床下部の障害による中
関連リンク
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