診療支援
治療

肝性脳症
hepatic encephalopathy
西原桜子
(高知大学・消化器内科)
西原利治
(高知大学教授・消化器内科)

◆疾患概念

 肝性脳症とは肝予備能低下や門脈-大循環シャント形成により脳症惹起物質が除去されないために生じる意識障害や精神症状のことをいう.脳症の発症機序は単一ではなく,アンモニアをはじめとする脳症惹起物質による神経細胞のミトコンドリア機能低下などが中心的役割を占める.

 精神症状には昼夜逆転,興奮,人格水準の低下,指南力の低下,傾眠傾向などがある.脳症の発症時には,本人からの正確な聞き取りは困難であるため,家人からの病歴聴取が重要である.便秘や脱水を誘因とすることが多く,消化管への蛋白負荷となる食道静脈瘤破裂による吐血,タール便,便秘などがあれば,診断の手がかりとなる.さらに,肝性口臭(甘い便のような呼気)や腱反射の亢進,特に羽ばたき振戦(前腕を固定し手首を背屈することによって速い手首の屈曲-伸展の繰り返しがみられる),高アンモニア血症を認めれば診断的価値が高い.脳波検査で三相波を認めることもある.

 肝性脳症の重症度は5段階に分類される(表1)

◆診断のポイント

 鑑別診断は,糖尿病に伴う高血糖,低血糖,ケトアシドーシス,外傷,感染症,脳出血,脳腫瘍,薬物中毒,代謝性疾患など.

◆治療開始までのポイント

 意識障害の鑑別のために,まず血液検査(全血算,血糖を含む一般生化学検査,電解質,プロトロンビン時間に加えて,アンモニア,Fischer比またはBTRなど)を行い,治療のための血管確保を行う.次に頭部CT検査(意識障害の鑑別診断目的),腹部超音波検査(肝細胞癌,門脈塞栓の有無)などを行う.吐下血を認める場合や血液検査結果から劇症肝炎を疑う場合は消化器専門医に相談する.

◆治療方針

A.治療方針の概要

 肝性脳症治療の基本は誘因の同定と除去である.腸管でのアンモニアなどの脳症惹起物質の発生抑制と吸収阻害に加えて,Fischer比,電解質などの代謝是正を行う.

B.誘因除去

 頻度の高い誘因に

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