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ウェルニッケ-コルサコフ症候群
Wernicke-Korsakoff syndrome (WKS)
小宮山徳太郎
(飯田病院・副院長(長野))

◆疾患概念

【定義・病型】

 ウェルニッケ-コルサコフ症候群(WKS)は,DSM-5ではsubstance/medication-induced major or mild neurocognitive disorderのmajor neurocognitive disorderにあたるビタミン欠乏性脳症の1つで,チアミン(ビタミンB1)欠乏に起因する脳症である.その急性期ないし亜急性期は,眼球運動障害,小脳症状,意識障害を呈するウェルニッケ脳症(Wernicke C, 1881)であり,慢性期は健忘,記憶障害,失見当識,作話のいわゆる健忘症候群を呈するコルサコフ症候群(Korsakoff SS, 1890)である.

 WKSは,アルコール依存症者に多いため,アルコールによる脳症と考えられがちだがそうではない.Wernicke Cの硫酸嚥下後に幽門狭窄を起こした例のほか,嘔吐頻回の妊娠悪阻,悪性疾患,糖尿病,胃腸疾患の外科手術,極度の瘠せ,不適切なダイエット,肥満手術(胃緊縛術,胆膵消化回避術など)など多種ある.

【病態・病因】

 ウェルニッケ脳症は,乳頭体,第3脳室,中脳水道,第4脳室周囲の出血性灰白質脳炎で眼球運動障害や失調や意識障害を起こし,コルサコフ症候群では視床や乳頭体の神経細胞の脱落やグリオーシスが生じ,記憶に関与する乳頭-視床間の神経回路網が障害され健忘症状群を生じる.

 神経細胞の脱落や出血性変化の原因はチアミン欠乏による.チアミンはTCAサイクルの補酵素として消費される.糖負荷や高カロリー輸液,妊娠・授乳などで消費が増大する.食事摂取が不十分のまま飲酒を繰り返すアルコール依存症では,チアミンの摂取量が減り必要量が増大するので容易にチアミン欠乏が生じる.そのため,WKSがアルコール依存症者に圧倒的に多い.アルコール依存症者でもWKSになる例とならぬ例があるのは,遺伝的素

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