診療支援
治療

有機溶剤依存症
organic solvent dependence syndrome
成瀬暢也
(埼玉県立精神医療センター・副病院長)

◆疾患概念

【定義】

 有機溶剤使用に関するコントロール障害であり,ICD-10では,強い欲望,コントロール障害,離脱症状,耐性形成,物質使用中心の生活,有害な結果が起きても使用,の6項目中3項目以上を1年間に満たせば依存症であるとしている.

 有機溶剤とは,一般に常温で液体であり,油脂や合成樹脂など脂溶性物質を溶かす有機化合物の総称である.トルエン,シンナーなどは「毒物及び劇物取締法」によって規制されている.製剤としては,シンナー,塗料,接着剤などがある.

 有機溶剤は,わが国において1995年頃まで覚醒剤と並んで二大問題薬物であったが,精神科受診者数は減少を続け,2014年の調査では覚醒剤,危険ドラッグ,鎮静薬に次いで第4位になっている.ただし,15歳以上の違法薬物の生涯経験率では依然として第1位を占めている.

【病態】

A.薬物誘発性障害

1.急性中毒

 吸入すると脂溶性のため容易に脳に達する.急性中毒症状として,麻酔作用と催幻覚作用が主であり,昏睡,もうろう状態のほかに,脱抑制,気分高揚,多幸感,万能感,易刺激性,衝動性,精神運動興奮などがみられる.

a.意識障害

 麻酔作用により,もうろう状態や昏睡などの意識障害を起こす.記憶の欠損を残すことも多い.アルコール酩酊に類似しており,飲酒の代替行為として乱用されることもある.大量・連続の吸引により,るいそうや脱水を引き起こしやすく,呼吸抑制などで死に至ることもある.

b.知覚障害

 催幻覚作用による幻覚や錯覚が特徴で,視覚異常や聴覚異常を引き起こす.前者は周囲が鮮やかに見えたり,大きく見えたり(巨視)小さく見えたり(小視),変形して見えたりする.身体浮遊感を伴うこともある.後者は聴覚過敏や要素性の幻聴が多い.自分の思い通りに幻覚を体験できる夢想症もみられる.

2.慢性中毒

 精神科的には,前頭葉機能障害や中枢神経系の広範な脱髄がみられ,意欲・発動

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