診療支援
治療

抗精神病薬
antipsychotics
大森哲郎
(徳島大学大学院教授・精神医学分野)

◆定義

 抗精神病薬とは統合失調症の治療に用いる薬物を原義とするが,それ以外の疾患にみられる幻覚妄想状態や不穏興奮状態にもしばしば用いられている.双極性障害の躁状態やせん妄に対してもしばしば用いられる.さらに抗うつ薬に反応しないうつ状態や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に反応しない強迫性障害などにも付加的に使用されることがある.現在のところわが国における保険適用は統合失調症に限られている薬物が多いが,臨床的な使用範囲はそれを大きく超えて広がり,器質性および症候性精神疾患,気分障害,不安障害に及んでおり,抗精神病薬という名称自体が必ずしも実際にそぐわなくなりつつある.

 歴史的には,抗精神病薬は1952(昭和27)年フランスのDelayとDenikerによって統合失調症に対する効果が発見されたクロルプロマジンを嚆矢とし,ハロペリドールが続いた.当時はまだドパミンが神経伝達物質として同定される前であり,作用機序は全く不明であった.1960年代に入って,2000(平成12)年にノーベル賞を受賞することになるCarlssonが,ドパミン代謝産物の増加という間接的な実験所見から,抗精神病薬の作用機序はドパミン受容体阻害作用にあることを推定した.その後の研究から,ドパミン受容体のなかでもD2受容体阻害作用が重要であることが明らかとなっている.現在に至るまで,臨床的に有効なすべての抗精神病薬は,D2受容体を介したドパミン神経伝達を減少させる作用を共通の作用としている.

 抗精神病薬は,1950年代の発見当初から錐体外路症状(EPS)が出やすいことに気づかれていた.そのような薬物を,従来型conventional,定型typicalまたは第一世代first generation抗精神病薬という.当時にあってクロザピンという薬物は例外的に錐体外路症状が出にくいことが知られ,それゆえ

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