診療支援
治療

睡眠薬
hypnotic drugs
吉村玲児
(産業医科大学教授・精神医学)

◆はじめに

 不眠に対して用いられる薬であり,睡眠導入剤あるいは単に睡眠薬とよばれる.現在わが国で最も処方されている睡眠薬はベンゾジアゼピン系(BZ)である.また,最近メラトニン受容体作動薬(特に視交叉上核に存在するメラトニンMT1/MT2受容体作用薬)ラメルテオン(ロゼレム)やオレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(ベルソムラ)が相次いで発売された.今回は主にこれらの薬物に焦点を絞り論じる.

◆睡眠薬の選択基準

 不眠は,寝付きにくい(入眠困難),夜中に何度も目が覚める(中途覚醒),朝早く目が覚める(早朝覚醒)の大きく3つの種類に分類される.一般的には,入眠困難タイプには超短時間・短時間型,中途覚醒タイプには中間型,早朝覚醒タイプには中間型-長時間型を用いる.しかし,これはあくまでも原則であり,各患者の睡眠薬を代謝する酵素の多い少ないなどの体質にも作用されるので,効果が得られない場合には変更する.

◆睡眠薬投与の際の注意点

A.BZ睡眠薬の使用原則

 不眠症に対しては,患者の睡眠障害の原因を明らかにすることと睡眠環境を整えることが第1に行われるべきである.睡眠薬を開始する場合にも,最も患者に適すると考えられる薬1種類のみを投与すべきである.BZ睡眠薬の多剤が単剤よりも有効であるとの証拠はなく,むしろデメリットのほうが多い.一過性の不眠であれば,症状が回復後直ちに睡眠薬を漸減するべきである.たとえ常用量であっても1か月以上漫然と服用すると依存を生じる.この依存には精神依存と身体依存がある.精神依存とは,睡眠薬を服用しないと不安で睡眠薬がやめられなくなる状態である.一方,身体依存は睡眠薬を急に中止することで,頭痛,発汗,震え,けいれんなどの症状が出現する.

 うつ状態・うつ病では不眠が高率で出現する.したがって,治療に際して抗うつ薬と同時に治療初期にBZ睡眠薬が処方される場合が多い

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