診療支援
治療

薬物血中濃度
plasma drug concentration and therapeutic drug monitoring (TDM)
野崎昭子
(東京武蔵野病院・精神神経科)
稲垣 中
(青山学院大学国際政治経済学部教授)

【定義】

 それぞれの向精神薬には定められた用法,用量が存在するが,吸収や分布,代謝,排泄の個人差により同じ用法,用量で投与しても血中濃度には個人差が出てくる.向精神薬は一般に血中から血液脳関門を通って脳内に移行し効果を発揮するとされており,用量よりは血中濃度のほうが直接的に薬物の効果と相関すると考えられる.そのため,薬物の開発段階では薬剤の血中濃度を測定して効果や副作用と血中濃度の関連を調べることが行われており,臨床導入後は血中濃度を測定して個々人の至適用量に投与量や投与法を調整することが行われている.後者を特に治療薬物モニタリング(TDM)という.

【適応】

 薬物血中濃度はそれぞれの個人では効果や副作用と相関するとも考えられるものの,患者を集団として観察した場合には血中濃度と効果,副作用の相関は多くの薬物で必ずしも明確ではない.また,海外では三環系抗うつ薬やクロザピンのTDMに関する報告も多いが,わが国で血中濃度測定が保険適用となっている薬剤は限られている.精神科臨床で使用される薬剤で2015(平成27)年7月現在保険適用となっているのは,リチウム,ハロペリドール,ブロムペリドール,および抗てんかん薬である.このなかで,治療域と中毒域双方の血中濃度について明確なコンセンサスがあるのはリチウムのみであり,ハロペリドールやブロムペリドールについては特に明確なコンセンサスはない.また,気分安定薬として多く用いられているバルプロ酸,カルバマゼピンについても,気分障害に対する治療域についてリチウムほど明確なコンセンサスはなく,てんかんに対する治療域濃度が援用されている.

 薬物血中濃度に影響するのは,薬剤の吸収,分布,代謝,排泄である.吸収については,それぞれの薬剤についてTmax(最高血中濃度到達時間),T1/2(半減期)が添付文書に記載されているが,多くの薬剤で活性代謝物

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