診療支援
治療

森田療法
Morita therapy
中村 敬
(東京慈恵会医科大学附属第三病院・病院長/教授)

◆定義

A.森田療法の成立と発展

 森田療法は,わが国の精神科医,森田正馬(もりたまさたけ)(1874-1938)によって1919(大正8)年に創始された神経症に対する精神療法である.森田療法は独特の入院治療を基本形としてきたが,最近は外来での森田療法も急速に普及してきた.また森田療法の考え方に立脚する当事者の活動(自助グループ)が大きく発展したこともこの療法の特徴である.

 治療の対象については近年,神経症に限らず慢性化した抑うつ障害に適用され,成果を上げている.そのほかPTSDなどのストレス因関連障害や,過敏性腸症候群,慢性疼痛,アトピー性皮膚炎など種々の心身症に森田療法の適用が広げられ,がんの患者のメンタルヘルスにも応用がなされている.

B.森田療法では神経症をどう理解するか

 森田療法の元来の治療対象はパニック症,全般不安症,社交不安症,広場恐怖症などの不安症群,強迫症,病気不安症(心気症)などの,いわゆる神経症性障害である.森田が着目したのは,これらの多様な神経症症状の背後に比較的共通の神経質性格が認められることだった.神経質性格とは内向的,自己内省的,小心,過敏,心配性,完全主義,理想主義などを特徴とする性格素質を指す.このような神経質性格を基盤にして,「とらわれの機制」とよばれる特有の心理的メカニズムによって発展する神経症が森田療法の典型的な治療対象と考えられてきた.

 とらわれの機制には,「精神交互作用」と「思想の矛盾」が含まれる.例えばパニック症の患者は,軽度の心悸亢進をきっかけに,注意と感覚が悪循環的に増強して症状を発展させる(精神交互作用).また赤面恐怖の患者は,何かの折に人前で恥ずかしく感じ,顔が赤らむといった当たり前の感情や生理的反応を「ふがいない」「もっと堂々としていなければならない」と考え,恥ずかしがらないように努める結果,かえって自己の羞恥や赤面にとらわ

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