双極性障害およびうつ病性障害は,従来,気分障害mood disorderに包括されていた精神障害であるが,2013年に刊行された米国精神医学会の診断基準DSM-5において,症候論,家族歴,そして遺伝学的な知見に基づいて2種の診断グループとして分離されることになった.しかし両者とも,持続的な気分・意欲の障害を基本として,広範な睡眠異常などの精神症状や社会生活に障害を生じさせる精神疾患である.そして,双極性障害が躁状態とうつ状態,抑うつ障害がうつ状態をそれぞれ呈することが特徴である.そこには,さまざまな病型や状態が含まれるのであるが,この章では基本的に,躁状態・うつ状態の救急対応を中心として記述してゆくこととする.
◆治療の導入
診察ではまず,十分に病歴を聴取し,躁状態もしくはうつ状態の程度を把握する必要がある.精神科救急の現場では,通院歴のある患者ばかりでなく,身元不明で情報を得るのが困難な症例にしばしば出会う.また,患者に病識がなく診察に協力的でない場合には,保護者など患者自身の生活をよく知る人物から得られる情報に大きく頼らなければならないことがある.既往の躁状態,うつ状態の評価は,経過や治療歴の情報が得られないと適切な判断が困難になることが多い.さまざまな情報を得て,それを総合して診断することは,治療を組み立てるうえできわめて重要である.なお,治療はうつ病・双極性障害,精神科救急診療の一般的な治療ガイドライン(参考文献参照)に沿って進めることが原則である.
A.診察
診察の目的は,病状把握や診断,入院適応の判断,そして,治療導入のためのラポール形成である.外来において,躁状態の患者は“気分が高ぶり,早口でしゃべっている人”が典型である.病識が乏しいことが多く,連れて来た周囲の人に不信感をもち,時に怒りをあらわにしていることがある.診察では患者に安心感を与えるように,問診は一
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