診療支援
治療

胸・腹部症状を伴う精神症状
psychiatric symptoms with chest/abdominal symptoms
森脇龍太郎
(千葉労災病院・救急・集中治療部長)
伊良部真一郎
(千葉労災病院・救急・集中治療部)
高村卓志
(千葉労災病院・救急・集中治療部)

 従来,脳自体の器質性病変に伴う精神障害を「器質精神疾患」とよび,脳自体には直接的な問題がないにもかかわらず,さまざまな身体疾患に伴って精神障害をきたすものを「症状精神疾患symptomatic psychosis」とよんで区別されてきた.本項ではその伝統的な用語である「症状精神疾患」のうち,胸部症状や腹部症状を呈する身体疾患として代表的なものを示し,その場合にどのような精神症状が多く認められるかについて概観する.

◆症状精神疾患

 いかなる身体疾患においてもそれが長期にわたると,不安や抑うつ状態を引き起こしやすい.基本的にはあらゆる身体疾患が「症状精神疾患」の原因となると考えられる.なかでも全身性エリテマトーデスを代表とする自己免疫疾患,下垂体,副腎,甲状腺などの内分泌疾患,糖尿病,葉酸欠乏症などの代謝疾患,急性心筋梗塞などの循環器疾患,敗血症をはじめとする感染症などで頻度が高い.また女性においては妊娠・産褥期や月経前後において生じやすい.

 症状は,慢性症状として抑うつ状態,パーソナリティ障害,認知症などがあり,急性症状としてせん妄,けいれん,意識障害・昏睡などがみられる.

 治療は,基礎疾患に対するものが基本であり,これをしっかりと行ったうえで,精神症状に対する対症療法を施すことである.抗うつ薬や抗精神病薬がうつ状態や不安,興奮といった精神症状に用いられる.基礎疾患が難治性であれば再発することが多く,一方コントロールされれば症状もおのずから消失する傾向がある.

◆胸部症状を伴う精神症状

 さまざまな呼吸器疾患や心疾患が呼吸不全や心不全の原因となる.いずれの場合も低酸素症をきたし,呼吸困難とともに不安や恐怖,認知障害,視力障害,せん妄,昏睡などの精神症状を呈する.また慢性閉塞性肺疾患などでは高炭酸ガス症を合併し,傾眠,多幸感,行動異常,振戦,けいれん,せん妄,昏睡などの精神症状を呈

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