診療支援
治療

身体系薬剤による精神症状
psychiatric symptom induced by non-psychotropic drugs
高橋 晶
(筑波大学医学医療系准教授・災害・地域精神医学)

◆定義

 精神科救急では幻覚・妄想,不安,焦燥,興奮,昏迷,さらにはせん妄状態などさまざまな状態を呈した患者が,その診断,治療のために病院に搬送されてくる.

 また一般の救急病院にも,身体科に通院中の患者が突然,せん妄状態や不穏状態を呈して搬送されることがある.いずれの場合の鑑別においても,身体疾患に伴う精神障害や中毒性精神障害の鑑別が重要だが,時に身体疾患に対する治療薬剤が原因となり精神症状を呈する例が散見される.

◆病態・病因

 身体系薬剤投与後に精神症状が出現した場合,精神症状の原因になっている可能性について検討が必要である.薬剤起因性の精神症状のなかでも,うつ状態,躁状態,幻覚妄想状態,せん妄状態が惹起され,症状が強い場合,精神科救急を受診する場合がある.したがって薬剤の服用歴について確認が必要である.時には市販の感冒薬やH1阻害薬,H2阻害薬がせん妄の原因となる場合があるので留意する.

 各薬剤によって精神症状発現機序は異なる.グルココルチコイドの反復投与はグルココルチコイド受容体の感受性を低下させ,視床下部-下垂体-副腎皮質系機能の亢進を起こし,意欲低下や気分障害をきたすと考えられている.

 降圧薬のレセルピンは中枢神経終末のアミン類を枯渇させ,抑うつ症状をきたす.またクロニジン,メチルドパは中枢性のα2受容体アゴニストで,ノルアドレナリン神経の受容体に作用することにより,ノルアドレナリン遊離を抑制し,抑うつ症状を呈すると考えられている.

 一般に高齢者ではコリン作動性伝達の低下に敏感であるため,薬剤の抗コリン作用でせん妄になりやすい.抗コリン性の抗パーキンソン病薬は,線条体のアセチルコリン受容体を遮断することにより,ドパミン系に対して相対的に優位となったアセチルコリン系の作用を抑え,その結果,精神錯乱,幻覚,昏睡,興奮などを起こすという説がある.またドパミン作動薬をパーキ

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