◆定義
患者が抱えるさまざまな問題に対して認知・行動の両面からアプローチする認知行動療法(CBT)は,気分障害・不安障害での治療効果を立証して精神療法の有力な一派となった.加えて1990年代以降,英国を中心にCBTを統合失調症に適応拡大する臨床研究が進められている.その結果,幻覚・妄想体験などの陽性症状にCBTが一定の有効性を示しうるというデータが報告された.現在では,英国医療技術評価機構(NICE)や米国精神医学会のガイドラインでCBTの実施が推奨されるようになり,わが国の統合失調症治療ガイドラインでもCBTの項目が採用されている.こうして,統合失調症のCBTが国の内外で公認されつつある趨勢といえるだろう.
一方,筆者も同じ1990年代以降,幻覚・妄想症状に関する心理教育を作成してCBTに関する臨床研究を続けてきた.本項では,筆者の臨床経験を交えつつ幻覚・妄想症状に対するCBTの概要を紹介する.
◆適応
幻覚・妄想状態にある患者のすべてが,CBTの対象となりうるわけではない.筆者はCBTの適応の目途として,次の「5つのC」を挙げたことがある.
・Calmness(落ち着き)
・Communication(対話)
・Curiosity(好奇心)
・Comprehension(理解)
・Cooperation(協力)
特に,患者がcuriosity(好奇心=幻覚・妄想に対するCBTへの興味・関心)を示さない場合には,CBTの施行は禁忌となる.そうした際は,「ではそういう治療もあると頭の片隅においておいて,興味が出てきたらおっしゃってください」と伝えて引き下がるようにする.
5つのCが満たされる場合には,幻覚・妄想症状がみられる精神障害のさまざまな治療段階において実施可能である.特に,以下の4つのポイントにおける適応が臨床上重要であろう.
1.治療導入期の病識育成
幻覚・妄想状態にある患者の