診療支援
治療

予防・早期介入
prevention and early intervention
水野雅文
(東邦大学教授・精神神経医学)

 医療費の膨大化の後押しもあり,多くの医療分野において予防や早期発見・早期治療や支援などの早期介入に対する取り組みが盛んである.精神科領域においても予防や早期介入に対する関心は高まりをみせているものの,現段階ではいわゆる一次予防については可能性を示唆するエビデンスさえ乏しい状況にある.それでも近年では,わが国から糸川,新井らの研究(Arai, et al, 2010)により,統合失調症の酸化ストレス解毒酵素であるGLO1の機能低下症例におけるビタミンB6補充がカルボニルストレス処理系の正常化をもたらし,発症予防につながる可能性が示唆されるなど,明るい兆しもみられている.海外では後述するように,発症危険症例に対してω3系不飽和脂肪酸の大量投与により,顕在発症への移行率の低下が示され,諸外国で共同研究が進められている.しかしながら発症危険状態そのものが,症候学的にも不安定で脆弱な対象であり,アドヒアランスの問題もあって大規模研究の精度は高くない.本項執筆時点で,明らかなエビデンスとして挙げられるほどの研究成果はみられない.

 一方,わが国の精神科医療サービス体制は,入院中心型から地域ケア中心型へと大きく姿を変えつつある.そのなかで,重症化,慢性化させず,地域のなかで社会包摂しながら支える早期介入の重要性が次第に認識されてきている.2014(平成26)年11月にTo the New Horizonをテーマに東京で開催された第9回国際早期精神病学会では,統合失調症モデルを脱し,双極性障害,不安障害なども含めたさまざまなより早期の病態研究と臨床実践の重要性,さらにその方法論が議論された.長期追跡研究などのエビデンスの蓄積により,早期介入の確かな有効性の検証を受けて,世界では,メンタルヘルス・プロモーションの地域における広がりに向けて,大きな力が注がれようとしている.

 そこで本項では,い

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