診療支援
治療

医療関係者の精神保健
mental health of medical worker
野村総一郎
(六番町メンタルクリニック・所長(東京))

◆概念

 いうまでもなく,あらゆる職域で精神保健の問題は発生しうる.医療現場においても例外ではない.特に近年の医療界は,先端技術の習得や医療安全の実施を当然のように要求される一方で,医療費には削減の波が押し寄せ,さらに患者要求のはてしないエスカレート,訴訟リスクの増大などのストレス要因を強く受けており,そこで働く従業員への心理的,身体的な負担には過大なものがある.米国政府の調査でも,医療従事者においては心の問題の発生率が他の職種に比べて高いとされ,日本でも同様の傾向があると推察される.特に燃え尽き症候群,うつ病,自殺の問題は深刻である.

 しかし,これらへの対策となると世界的に整備されているとはいい難く,特にわが国では大きく遅れているといわざるを得ない.換言すれば,施策的,学問的に今後の進展が大きく期待される分野であろう.

◆生じやすい問題

A.燃え尽き症候群

 「他者を援助する仕事に就いている使命感の強い人が,長期にわたる過剰な要求にさらされた結果,心身疲弊,感情の枯渇,自己卑下,職務への嫌悪,思いやりの喪失などの状態に陥る現象」と定義される.もともと医療・福祉職で報告され,個人が苦しむことはもちろん,有為の人材が潰れてしまうことで社会的な喪失が大きい点が問題とされる.わが国における調査でも特に研修医や看護職の燃え尽き率が高く,離職に結びつくことが多いことが裏づけられている.要因としては,患者との関係にとどまらず,職場内人間関係や,裁量権のなさなどが関係していると思われる.臨床的には不安障害,うつ病,アルコール依存,過食症などと併存しうる現象である.

B.うつ病

 米国の調査では医師のうつ病罹患率は一般人口より高いことが古くから指摘されており,最近の米国政府統計でも医療従事者の9.6%がうつ病に罹患しているともされる.特に研修医においては高率であり,30%余りが有意の抑うつ状態を経験し

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