診療支援
治療

精神保健における暴力のリスク・アセスメント
assessing risk for violence in mental health
吉川和男
(吉川クリニック・院長(東京))

◆定義

 本項では,主としてHCR-20V3(Historical Clinical Risk management-20, Version3)を用いた精神保健における暴力のリスク・アセスメントについて述べる.HCR-20V3に従って,暴力は「他者に対する苦痛を伴う身体的危害の既遂,未遂,あるいは脅迫」と定義し,身体的危害には,個人の健康あるいは幸福に実質的な害を及ぼすような物理的危害と深刻な心理的危害の両者が含まれる.心理的危害には物理的傷害に対する恐怖感,さらに当該行為によってもたらされる情緒的,精神的あるいは認知的な障害が含まれる.

◆リスク・アセスメントの手順

 以下には,HCR-20V3を用いてリスク・アセスメントを行ううえでの注意点について簡潔に述べる.HCR-20V3では,ヒストリカル(過去),クリニカル(現在),リスク・マネジメント(未来)の3つの柱から暴力のリスクをアセスメントする.

A.ヒストリカル

 HCR-20V3の半分を占める最も重要な項目である.この10項目を正確にアセスメントすることで患者の行動様式の全体像が理解できるようになる.

 H1暴力に関する問題の既往:その人が過去にどのような状況でどのような暴力を行ってきたのか,本人だけではなく,家族や知人からの面接,警察・司法関係機関からの報告書など可能な限り客観的な情報をもとに,暴力が発生したときの状況を正確に再現し,記述する.一般的に,早期に暴力を行うとその後の暴力の発生の危険性は高くなることは種々の研究でも明らかである.さらに,発達段階にわたって暴力は広範なパターンを示すことも知られている.以上のことから,HCR-20V3では12歳以下,13-17歳,18歳以上と3つの年齢区分に分けて暴力の有無と性質について注意深く検討することが推奨されている.

 H2他の反社会的行動に関する問題の既往:暴力以外の反社会的

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?