診療支援
治療

強制治療
involuntary treatment
分島 徹
(陽和病院・院長(東京))

◆定義

 治療とは,患者の病態を改善し,健康にするため施す医療行為である.しかし,治療行為によってはある程度の身体的な侵襲が予測される場合があり,治療には一定のリスクがつきまとう.こうした場合に患者が治療を受けるかどうかは最終的に患者に自己決定権があるとされている.また,患者が自己決定権を行使できるようにするためには,医療者側が治療に対する情報をわかりやすく伝え,患者が十分に理解したうえで治療に対する意思を決定してもらう,いわゆるインフォームド・コンセントが基本にある.これは患者側に同意能力が備わっていることが前提にあり,こうした条件が整わない場合は法的な代諾者の同意に基づいて治療が行われているのが現状である.しかし,同意のない治療行為がすべて強制治療に当たるわけではない.強制治療とは患者本人の意思に反し,他者の意見を優先して導入するのが本来の強制治療といえる.患者の不利益を防ぐためといったパターナリズムによって開始された旧来の精神科治療には強制治療的な側面があった.

◆精神科治療の特殊性

 精神医療以外にも強制治療は存在する.感染症予防法では,バイオテロなどを想定し,知事は,一類感染症の蔓延を防止するため必要があると認めたときは,特定の医療機関へ入院する必要があることを患者に説明し,理解が得られるように努力する.もしこの勧告に従わなければ,入院させることができるとされている.これは公権力を行使した強制的な入院であり強制治療である.

 この場合,患者は感染症に罹患したことは自覚できるし,判断能力がありさえすれば勧告に同意できるであろう.ところが精神疾患では自らの精神的不調に気づきにくく,病気という認識をもちにくいという特徴がある.したがって本人の同意によって治療を導入することが困難な場合があり,しばしば非自発的入院から治療がスタートする.しかも患者本人の自由な行動を制限せざるを得な

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