診療支援
治療

胸部外傷
thoracic injuries after chest trauma
前田貢作
(にこにこハウス医療福祉センター小児外科・部長(兵庫))

●病態

・小児の外傷のうち,胸部外傷は4.5~8%である.しかしながら,胸部外傷は頭部外傷に次いで死亡率が高く,また,小児の多発外傷では,胸部外傷が併存すると死亡率が20倍増加するといわれている.

・小児の胸部外傷では,鈍的外傷が全体の70~80%を占める.気胸,血胸,肺挫傷,肋骨骨折,気管気管支の損傷のほかに,食道や横隔膜の穿孔,心・大血管の損傷など致死的な傷害も含まれる.主な原因としては,交通事故(歩行中,シートベルト非着用,自転車),転落,虐待などがあげられる.

・病態生理としては,小児では胸壁の弾性のため,外力は肋骨骨折を引き起こすよりも胸腔内臓器に直接伝達されると考えられる.また,低酸素血症に陥りやすく,心室の収縮能の低下をきたしやすい.小児では,心拍数の増加による循環動態の改善は期待しにくく,急激に非代償性の状態に陥りやすい.開胸手術が必要なものは15%以下に過ぎず,残りの85%は基本的な初期治療で管理しうる.正しい診断と適切な治療により死亡はかなり防ぎうるものと考えられる.

●治療方針

A.初期対応

 胸部外傷の初期対応としては,ABC(air way,breathing,circulation)が重要である.ATLS/PALSに従ってシステマティックに評価する.まず呼吸障害,チアノーゼの有無をチェック.気道を確保し,口腔内を吸引し,酸素投与を開始する.必要ならば気管挿管を行う.意識のない場合には気管挿管するとともに,経鼻胃管を挿入し誤嚥を防ぐ.胸部の聴打診にて異常を確認する.胸部の外傷の有無,気胸と皮下気腫の有無を確認する.視診,触診で創傷,変形,創痕,捻髪音,圧痛の有無を確認.さらに心拍数と血圧を測定し,輸液路を確保するとともに血液型のチェックを行い,細胞外液を主とする輸液を開始する.

 引き続いて初期サーベイとして致死的損傷の検索を行う(ATOMCFと覚えておく).

 

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