診療支援
治療

腹部外傷
abdominal trauma
米倉竹夫
(近畿大学奈良病院小児外科・教授)

●病態

・小児は腹部が占める部位が相対的に大きく,胸壁・腹壁が薄く臓器周囲の支持組織も脆弱なため,弱い外力でも肝・腎・脾などの実質臓器損傷をきたしやすい.臓器が近接しているためしばしば複数の臓器損傷を合併する.

・受傷機転としては交通事故や,転倒・転落,虐待,自転車のハンドルやシートベルトによる外傷など,9割以上は鈍的外傷である.受傷機転の聴取はきわめて重要で,損傷臓器とその程度を予測することができる.不明な場合,虐待による外傷を除外する必要がある.

・心拍出量は心拍数に依存することから,出血性ショックを伴う徐脈は切迫心停止と認識する必要がある.中枢神経系は低酸素や虚血に対し脆弱で脳腫脹をきたしやすい.

・重症外傷の予後不良の因子である低体温・代謝性アシドーシス・凝固異常は死の三徴とよばれる.特に小児は容易に低体温となるので保温に注意する.

・重症外傷でも初診時は症状が軽微なことや,異常所見はなくても遅れて症状が出現することもあり,注意深い経過観察が必要である.

・明らかな腹部臓器損傷を認めた場合は,緊急の外科治療が対応できる施設(高次施設)において治療を行う必要がある.

・臓器損傷を認めた場合でも注意深い観察下に全身管理を行うことで,90%以上は臓器を温存することが可能である.

●治療方針

A.トリアージ

 小児外傷の診療はPALS(pediatric advanced life support)または外傷初期診療ガイドラインJATECに従う.pediatric assessment triangle(PAT)を用いトリアージを行い,A(appearance:外観・見かけ)・B(work of breathing:呼吸状態)・C(circulation to skin:循環・皮膚色)の1つ以上の所見があれば,緊急性が高いと評価し診療を開始する.

B.primary survey(初期評価)

 A

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