診療支援
治療

倫理面からみた新生児治療方針の意思決定
加部一彦
(埼玉医科大学総合医療センター新生児科・教授)

A.治療方針の意思決定

 日常臨床の場面では,治療方針のみならず,常にさまざまな意思決定が行われている.治療に関する意思決定の大半は医学の専門知識や経験,臨床推論から導き出される決定であり,そのような意思決定が医師によって行われることに問題はないが,意思決定に至るまでのプロセスについて,医師の独善性やパターナリズムが批判の対象となることがある.

 自ら意思決定能力を有しない新生児では,治療方針のみならず,さまざまな意思決定に際し患児の保護者(多くの場合,児の両親)との意思疎通が必要不可欠だが,意思決定を巡って生じる不満や批判のほとんどは治療方針そのものよりも,決定過程における不十分なコミュニケーションに起因すると考えられる.

 治療を巡る意思決定が児の症状という「事実」から導き出される場合には,たとえその決定が少々一方的であっても議論や批判の対象となることはないが,生命予後や後障害の程度など必ずしも「事実」として明確に提示できない場合,決定がもっぱら医師の有する「価値」によって左右され,児の両親のみならず,看護スタッフやほかの医療専門職など患児を取り巻く多くの人たちの多様な価値観を反映する機会がなかった場合に,「価値の対立」すなわち「倫理的ジレンマ」が顕在化することとなる.

 治療方針の意思決定に際しては「児の最善の利益」を最大限尊重することが原則とされるが,「児の最善の利益」を巡る判断は,そこに参画する人々の価値観の対立が先鋭化しやすい場面でもあり,それゆえに意思決定を巡っての隘路となりやすい.

B.話し合いのガイドライン

 ジレンマに陥り膠着してしまいがちな状況を解決する手法として,最近提唱されているのが「話し合いのガイドライン」である.このガイドラインの目的は,一般の「診療ガイドライン」と異なり,エビデンスに基づく標準的治療を示したり,アルゴリズムに従って最終的な結論に導いたりす

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