●病態
・自己免疫による慢性炎症,放射線照射,薬剤,ヨウ素過剰などの多様な原因により発症する.
・小児では成長率低下が特徴であり,そのほか易疲労感,無力感,耐寒性の低下,発汗の減少,便秘,顔のむくみ,肥満度の増加,思春期早発,股関節痛などの症状を呈する.自覚症状に乏しいことも多い.
・原因としては,自己免疫性甲状腺疾患である慢性甲状腺炎(橋本病)が最も多い.甲状腺腫大を伴わない萎縮性甲状腺炎も小児期に時々発症する.
・「慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン」が発表されている(日本甲状腺学会,2013).
●治療方針
ヨウ素過剰や不足,薬剤性を除外する.また甲状腺機能低下症が一過性か否かを判断する.成長率の低下なく上記の症状に乏しい場合は無治療で経過観察し,1か月後に甲状腺機能を再評価してもよい.慢性的な甲状腺機能低下症と判断した場合は,治療薬としてレボチロキシンナトリウム(L-T4;チラーヂンS)を内服する.原発性甲状腺機能低下症では甲状腺刺激ホルモン(TSH)が正常範囲に入ることを目標にL-T4量を調節する.
L-T4によりまれに,過敏症状や薬剤性肝障害が報告されている.チラーヂンSの吸収を妨げるような薬剤やサプリメント(鉄剤・亜鉛製剤やカルシウム製剤,豆乳など)は同時摂取しないように注意すべきである.
A.顕性甲状腺機能低下症
FT4低値およびTSHが上昇し,甲状腺機能低下症に起因する症状を呈する場合.機能低下の期間や重症度に応じて,L-T4投与量を検討する.心疾患,特に冠動脈性心疾患を有する場合や高度の機能低下が長期間続いた場合には,維持量の1/4~1/2程度の低用量から開始し,増量するほうが安全である.
Px処方例 11歳橋本病女児.学校健診で成長率低下を指摘され受診.体重30kg,TSH 80μIU/mL,FT4 0.5ng/dL.
チラーヂンS薬錠(50μg) 1回1錠 1