診療支援
治療

乳び腹水
chyloascites
渕本康史
(国際医療福祉大学小児外科学・主任教授)

●病態

・腹腔内のリンパ液の流れは,腸管内から吸収された脂肪を含む乳び(リンパ液)が腸間膜動脈根部に収束し,乳び槽に流入後,胸管へと流出する.乳びを含んだ胸管が腹腔内で破綻し流出した場合,乳び腹水となる.

・乳び腹水の原因として,①先天的リンパ管異常,②腸回転異常や絞扼性イレウスなどによるリンパ管の閉塞,③術後の外傷性などがあげられる.

●治療方針

A.保存的治療

 乳びの流出量を減じ,損傷部位の閉鎖を期待し,さらにリンパ管の側副路の形成を期待するものである.中鎖脂肪酸を用いたMCTミルクや,脂肪含有量が少ない消化態栄養剤(エレンタールP)をまず用いて食事療法を行うことが多い.これらが無効な場合,絶食にして中心静脈栄養法(TPN)を行う.

Px処方例

オクトレオチド酢酸塩皮下注 0.3~0.5μg/kg/時 皮下注(ただし小児に対する投与量,安全性は確立していないので,使用前にインフォームド・コンセントを得ておく必要がある)

B.外科的治療

1.乳び漏出部位の同定・修復

 原因が明らかな場合,あるいは1か月以上の保存的治療が無効な場合は外科的治療が必要となる.漏出部位を検索し,確認できた場合同部位を修復する.漏出部の同定には,リンパ管シンチグラフィーやリンパ管造影,脂溶分の多いアイスクリームやミルクの摂取,脂溶性色素(メチレンブルー,スダン・ブラックなど)が用いられる.

 外科的修復としてはフィブリン糊の散布,リンパ管クリッピング,リンパ管結紮などがある.さらに最近ではICG(インドシアニングリーン)を術前に趾間に皮下注射し,ICG蛍光を体腔鏡で観察して胸管を含むリンパ管を同定し,損傷部の修復を行い,鏡視下手術により拡大視することで良好な視野が得られ,低侵襲に治療を行うことができるとの報告もある.

2.癒着(硬化)療法

 漏出部位のピンポイントでの同定が困難な場合,漏出部位付近にOK-432,ブレ

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