●病態
・全身麻酔の周術期合併症で,遺伝素因が関与した筋原性疾患である.非常にまれな疾患であるが,重篤で時に致死的な経過をとり,早期診断と迅速な治療が予後を左右する.
・病態は揮発性吸入麻酔薬が誘因となり,骨格筋細胞内のカルシウム(Ca)調節機能の異常によりCa2+濃度が上昇して,過度な筋収縮を引き起こす.その結果,異常高体温,呼吸性および代謝性アシドーシス,頻脈,不整脈,筋強直,横紋筋融解が生じる.
・日本麻酔科学会が「悪性高熱症患者の管理に関するガイドライン2016」を作成しており,特異的治療薬であるダントロレン使用により死亡率は10%以下に低下している.
●治療方針
MHは特異的な症候がないことが特徴であるので常に発症を念頭におくことが重要である.全身麻酔後に説明のつかないEnd-tidal CO2の上昇,頻脈,15分間に0.5℃以上の体温の上昇,アシドーシス,筋硬直およびCK値の10倍以上の急激な上昇などを認めれば,MHによる緊急事態を宣言する.
直ちに吸入麻酔薬を中止して静脈麻酔に変更し,手術は中止する.高流量純酸素で通常の2倍以上の換気を行う.
1.ダントロレン投与
Px処方例
ダントリウム薬注 初回:1~2mg/kg 15分かけて静注 以降は心拍数の低下,筋硬直の改善および体温が低下するまで随時追加投与する(最大7mg/kgまで)
2.強力な冷却
全身クーリング,冷却水による胃・膀胱洗浄および冷却輸液を行い,体温が38℃以下になれば中止する.
3.ほかの対症療法
アシドーシスに対する重炭酸Na投与(1~2mEq/kg),高K血症に対しては塩化Ca 10mg/kg(最大2,000mg)またはグルコン酸Ca 30mg/kg(最大3,000mg)の投与を考慮する.Ca拮抗薬は,ダントロレンとの併用により心停止の報告がある.
合併症として重度な横紋筋融解症,急性腎不全や播種性血管内凝固