わが国では野球の人気が高く,その弊害として小児に生じる肘スポーツ障害の大半が野球肘である.本項目では野球肘について記載する.
●病態
・投球動作は全身の運動連鎖で行われる.運動連鎖が破綻すると,成長過程で弱い組織に障害が生じる.小児期の肘には骨端線,骨端核が存在し障害が生じやすい.
・野球肘は生じる部位により内側型,外側型,後方型に分類される.
・小児にみられるものを示す.
a)内側型:内側上顆骨端離解,内側上顆下端裂離骨折,内側側副靭帯損傷
b)外側型:小頭離断性骨軟骨炎
c)後方型:肘頭部骨端線障害
・小児にみられる大半は内側型で,次が外側型である.後方型はまれにみられる.
●治療方針
後遺障害を生じさせないために早期発見,早期治療が重要である.診断には肘正側面2方向のX線撮影に加え,肘45度屈曲位正面での小頭接線方向撮影,内側45度からの斜側面撮影が必須である.
内側型は疼痛が消失するまでの3,4週は投球を禁止する.裂離骨折などで急性発症が考えられる場合は外固定をする.
後方型は数か月の投球禁止を行う.多くは改善するが,改善しないときは手術が必要となる.体外衝撃波治療も有効である.
外側型(小頭離断性骨軟骨炎)は小学4,5年で生じ始め,疼痛が出現し受診した際は進行していることが多い.早期発見できれば投球禁止の保存療法で治癒する.発見が遅れたり投球禁止が守れないと骨軟骨病変が遊離し,肘関節内で引っ掛かったり関節変形が生じたりして手術が必要となる.最悪の場合は日常生活に支障をきたすほどの可動域制限が生じる.近年,外側型を早期発見するために少年野球検診が全国各地に広まり行われている.検診に超音波検査を導入すると,無症状の早期に発見ができ,非常に有効である.
骨端線が消失しても病変が残存する場合は,保存療法での組織治癒は見込めない.
■専門医へのコンサルト
・数週間の投球禁止で改善がない場
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