Ⅰ.睫毛内反症
●病態
・乳幼児の睫毛内反症はほとんどが下眼瞼にみられ,生直後より睫毛が眼球表面に触れているのが確認される.
・睫毛が触れている範囲が内眼角付近のみの軽度のものは自然改善することが多いが,下眼瞼の横幅の1/2を超える例では改善しにくいとされている.
・改善しない例では,成長に伴い睫毛も太くなり,角膜びらんの発生や,流涙,異物感,羞明,視力低下などの症状を引き起こすため,細隙灯顕微鏡検査で経過観察する必要がある.
●治療方針
角膜上皮障害や明らかな自覚症があれば手術治療の適応である.手術には,結膜円蓋部から睫毛下の皮膚に通した合成非吸収糸を縫合するだけの通糸埋没法と,余剰な皮膚と眼輪筋を切除して睫毛下の皮下と牽引筋腱膜とを縫合する切開法がある.前者には再発がみられることから,近年は切開法を選択することが多い.
手術は全身麻酔下に行い,抜糸が難しい年齢では皮膚の縫合は自然脱落する吸収糸を用いる.術直後には下眼瞼に二重瞼様のヒダが形成されるが,やがて目立たなくなる.
Ⅱ.先天眼瞼下垂
●病態
・ほかの眼瞼異常を伴う眼瞼縮小症候群や,眼球運動制限を伴う外眼筋線維症などもあるが,多くは眼瞼下垂のみの単純性である.
・先天単純下垂の多くは筋原性で,眼瞼挙筋の収縮ばかりでなく伸展性も不良のため,片側性では下方視時に上眼瞼縁の高さが健側より患側のほうで高い位置にあるのが特徴である.
・出生直後にはほとんど開瞼しない例でも,日を追うごとに少しずつ開瞼するようになり,やがて頭部傾斜や顎上げで両眼視をしようとする態度がみられる.いつまでも開瞼しない場合には,無眼球症や全身の多発奇形の合併もあり,注意が必要である.
・先天眼瞼下垂による真の遮閉弱視はないが,眼内の器質的疾患による視力不良や片側性斜視による斜視弱視,不同視による不同視弱視,屈折異常弱視が合併している可能性はあり,眼科的検査は不可欠である.