診療支援
治療

慢性中耳炎,中耳真珠腫
chronic otitis media,middle ear cholesteatoma
山本 裕
(東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学・教授)

●病態

・慢性中耳炎(図1a)とは,鼓膜緊張部に穿孔が存在し,中耳腔の感染・炎症が反復する状態をいう.急性中耳炎や外傷性鼓膜穿孔の不完全治癒,滲出性中耳炎に対して行われた鼓膜換気チューブ留置後の鼓膜穿孔の残存などが原因となる.

・中耳真珠腫は,胎生期の扁平上皮の中耳腔への遺残に起因する先天性真珠腫(図1b)と,生後に鼓膜上皮が中耳腔に陥入することにより生じる後天性真珠腫(図1c)に分けられる.骨破壊を伴いながら増大し,進展例では側頭骨内や頭蓋内の合併症を引き起こす.

●治療方針

A.慢性中耳炎

1.保存的治療

 耳漏出現時には,まず感染制御のための抗菌薬投与を行う.本症の感染は外耳道,鼓膜穿孔経由で生じるため,耳管経由の感染で成立する急性中耳炎とは起炎菌が異なる.耳漏の細菌培養検査結果を参考に感受性のある抗菌薬を使用するが,結果が判明する前には黄色ブドウ球菌,緑膿菌などの感染を念頭におく.

 抗菌薬は鼓膜穿孔を経由して中耳腔に至り,耳漏中に高濃度を維持することができる点耳薬がきわめて有効なため,第1選択となる.しかし鼓膜穿孔が小さく中耳腔への点耳薬の流入が期待できない場合や,効果が不十分な場合は,感受性の高い内服抗菌薬の投与も併用する.

Px処方例

タリビッド耳科用液 1回6~10滴(成人量,小児では適宜滴数を減ずる) 1日2回 点耳

2.外科的治療

 本症の根治には,感染経路を作っている鼓膜穿孔を外科的に閉鎖することが必要となる.側頭骨の発育や耳管機能が成熟する10歳以降に手術を行う場合が多いが,耳漏が頻回な症例や,難聴が深刻な症例ではその限りではない.穿孔が比較的小さい場合は,経外耳道的に鼓膜穿孔を修復する鼓膜形成術が,穿孔が大きい場合や耳小骨病変が存在する場合は,中耳腔に操作が及ぶ鼓室形成術が選択される.

B.中耳真珠腫

 本症は先天性,後天性ともに骨破壊をきたす進行性の疾患のため,原

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