●病態
・齲蝕はミュータンスレンサ球菌(MS:mutans streptococci)が引き起こす感染症である.MSはスクロースから非水溶性グルカンを産生し,歯面上にバイオフィルムの一種であるデンタルプラークを形成し,スクロースをはじめとする糖から産生した有機酸で歯を脱灰させ齲蝕を発生させる.
・MSが存在するからといって必ず齲蝕が発症するわけではなく,細菌,食事,宿主(歯・唾液)の3つの因子に一定の条件がそろう必要がある.これらの条件は食生活や口腔衛生習慣に大きな影響を受け,条件が整ってから齲蝕の病状が明らかとなるまでに数か月の時間が必要である.
・齲蝕は感染症と生活習慣病の両方の特徴を合わせもつ.齲蝕予防のためにはその発症条件が満たされぬようにすることが重要である.
●治療方針
A.細菌に関して
1.MSの感染抑制
乳歯萌出期にMSの定着を遅延させることが齲蝕予防につながる.感染菌数が多い,感染回数が多い,口腔内にスクロースが存在する場合にMSの定着は早くなる.
a.MS感染菌数の減少 多くは養育者が感染源となるため,養育者には齲蝕治療を受けるように指示し,口腔清掃指導を行う.
b.MS感染回数の減少 感染は唾液を介して起こるため,養育者の唾液が小児の口腔内に入る機会を減らすように指導する.噛み与えは禁止し,小児に使用する食器や歯ブラシなども養育者と共有しないように指導する.
c.スクロースの制限 小児にスクロースを与える時期を遅らせるように指導する.離乳期にスクロースを多く含む食品を与える必要はなく,この時期のスクロースの摂取制限は将来の甘味嗜好の生活習慣を防止するうえでも重要である.
2.デンタルプラーク(歯垢)の除去
デンタルプラークは歯面に強固に付着し,免疫作用や薬物に対する抵抗性が高い.したがって,デンタルプラークはブラッシングなどの機械的方法以外に除去できない.
a.ブラッシング