A.病態
頭部へ虐待として振るわれた外力は,眼や視機能にさまざまな損傷を生じうるが,とりわけ虐待性頭部外傷(AHT:abusive head trauma)は,乳幼児に行われる転帰の悪い身体的虐待の1つである.臨床や剖検研究,コンピューターによる力学モデル実験などさまざまな分野の研究によって,乳幼児の肩などをつかんで激しく前後に強く揺さぶって生じた反復性の加速減速の外力が,眼球内部のゲル組織である硝子体に伝わり,硝子体と網膜を引きはがそうとする力(剪断力)を繰り返し生じるという「硝子体牽引説」が網膜出血をきたす機序として最も有力とされている.このため「ゆさぶられっ子症候群」とかつての狭義の名称が現在でもたびたび用いられている.
多層性で数え切れないほど多発した網膜出血を呈する(図1図).重症であるほど網膜出血は数が多く広範囲となる.その他,特徴的な網膜所見として網膜内部の出血によって層が裂