◆病態と診断
・鼻腔,咽頭,喉頭までの上気道から声門下部以下の下気道に至る異物の病態は,気道の物理的な閉塞と炎症である.
・異物の誤嚥や吸引などの病歴があり,咽喉頭の違和感,咳嗽,喘鳴,呼吸困難,窒息などの症状がみられれば,診断は容易である.
・異物が気管支へ落ち込むことで,症状が落ち着くことがある(symptomless period).
・異物の存在を患者や周囲の者が認識していない場合,炎症によって遅発性に咳嗽や発熱を呈することがある.初診患者の反復あるいは持続する呼吸器症状や発熱では気道異物を鑑別に挙げる.特に小児や高齢者では病歴を詳細に聴取することで異物吸引の事実に至ることも少なくない.
・理学所見として,胸郭挙上や呼吸音の左右差,片側の喘鳴を確認する.
・異物はX線非透過性であることも多いので単純X線で異常なしとは判断せず,異物を疑う場合はCT撮影を行う.胸部単純X線では吸気呼気で撮影して,呼気時に縦隔が健側へ偏位する縦隔動揺(Holzknecht's sign)の有無が診断を助ける.
・確定診断として内視鏡検査による異物の確認は確実である.
◆治療方針
一次救命処置に含まれる背部叩打法,腹部突き上げ法については「一次救命処置(BLS)―成人」の項(→)を参照.
A気道緊急における対応の留意点
異物による気道閉塞状態で,有効な換気・酸素化が得られない状態では,異物除去の手順を実施しつつも,それにこだわって気道閉塞状態を長引かせてはならない.躊躇なく経口気管挿管,輪状甲状靭帯切開などにより気道を確保する.異物による窒息状態であっても,気管チューブで片側気管支に押し込むことができれば,片肺換気が可能となる.また,現時点では気道が保たれていても,体動や呼吸に伴って異物が移動し,瞬時に窒息に至る可能性も念頭においておく.
B鼻腔,咽頭,喉頭までの上気道異物
準備:吸引,喉頭鏡,マギール鉗子.