今日の診療
治療指針

発作性夜間ヘモグロビン尿症
paroxysmal nocturnal hemoglobinuria(PNH)
後藤明彦
(東京医科大学主任教授・血液内科学)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・重症度が中等症以上の場合に抗補体療法による治療介入を考える.

・抗補体療法の中止は重篤な溶血発作を起こす可能性があり,基本的に継続が必要である.

・抗補体療法中は侵襲性髄膜炎菌感染症のリスクがあり,急速進行性で致死的になりうることを患者と共有し,発熱時の対応について診療機関側もあらかじめ対策を立てておく(電子カルテ上のアラートなど).

◆病態と診断

A病態

・造血幹細胞のPIG-Aを主とする遺伝子の変異によるGPIアンカー蛋白の合成障害が病因.

・補体制御因子CD55やCD59はGPIアンカー蛋白に結合し,CD59は補体活性化で生じた膜侵襲複合体を制御することで赤血球を保護している.CD59が欠如あるいは低下した赤血球は,補体活性化により容易に血管内溶血をきたす.

・溶血,血栓症,骨髄不全が発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の3大徴候である.血管内溶血によって生じた遊離ヘモグロビンが,NO低下などを介して血栓症や平滑筋緊張に伴うさまざまな臓器障害や症状(肺高血圧症,腎障害,疲労感,嚥下痛,胸腹部痛,男性機能不全など)を引き起こす.

B診断

・クームス陰性溶血性貧血,原因不明の血栓症・汎血球減少の存在などからPNHを疑う.

・好中球・赤血球のCD59・CD55フローサイトメトリーで陰性細胞(PNH血球)を1%以上認め,血清LDHが正常上限の1.5倍を超えていれば臨床的PNHと診断する.

◆治療方針

 貧血に対する輸血は通常の赤血球製剤でよい.補体介在性慢性溶血に対して抗C5モノクローナル抗体による抗補体療法が著効を示す.同種造血幹細胞移植は根治療法だが溶血抑制により予後良好となるため,重度の骨髄不全や抗補体療法でも溶血や血栓症がコントロール不良な場合に限って考慮する.「発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和1年改訂版」による重症度分類で,中等症はLDH正

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