今日の診療
治療指針

心的外傷後ストレス障害
posttraumatic stress disorder(PTSD)
田中 究
(兵庫県立ひょうごこころの医療センター・院長)

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ニュートピックス

・これまでの臨床知見に基づき,ICD-11には複雑性PTSDという新たな診断基準が導入された.

治療のポイント

・患者にはまず安全で安心な物理的,心理的環境と周囲からの支援が必要であり,外傷的出来事について,配慮なく聞き出すことは避ける.治療者との信頼関係が重要である.

・多くは時間の経過とともに症状は消退する.現実的な問題の解決,周囲の人との関係の促進,その具体的方法の提供などを行う.

◆病態と診断

A病態

・心的外傷後ストレス障害(PTSD)は,人が命にかかわるほどの外傷的出来事,すなわち強い衝撃を受けたのち,その人の職業,学業などの機能が損なわれるような,心理学的,生理学的変化が,1か月以上続く場合に診断される.

・外傷的出来事には,自然災害,人為災害,事故,犯罪被害,性被害,家庭内暴力,戦闘などがあり,直接体験した場合もそれを目撃した場合も含まれる.

・PTSD患者の生物学的研究では,扁桃体の反応の異常や海馬体積の減少,前部帯状回の機能不全,血中コルチゾールの低値などが報告されており,病態に関与していると考えられている.

・うつ病,不安症,アルコールなどの物質使用症などが併存症として認められることがしばしば認められ,逆にこれら治療中にPTSDが診断されることもある.

B診断

・PTSD症状は,危険な状態ではないにもかかわらず外傷的出来事が生じた際の記憶,感情,思考,身体感覚の侵入,悪夢などの再体験症状,出来事と関連する状況や事物の持続的回避,無感情や外傷時記憶の欠落などが生じる回避・麻痺症状,不眠や集中困難,些細な物事への過剰な驚愕や過度な警戒などの過覚醒症状,否定的な信念,活動などへの関心の低下,他者からの疎隔感などの認知や気分の陰性変化などを認める.これらの症状が1か月以上持続している場合に診断される.

・診断基準はDSM-5とICD-11ではやや異なる.

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