Ⅰ.腕神経叢損傷
頻度 あまりみない
◆病態と診断
A病態
・腕神経叢損傷は最も重症な末梢神経障害であり,ほとんどが交通事故など高エネルギー外傷によるものである.
・損傷病態は髄鞘のみ損傷されるneurapraxia,髄鞘,軸索までが障害されるaxonotmesis,神経の連続性が断たれるneurotmesisに分類される.
・損傷部位は後根神経節より中枢で神経が損傷される節前損傷と,後根神経節末梢で神経が損傷される節後損傷に大別され,損傷高位は肩肘機能が障害されるC5-6型,これに加え手関節背屈が障害されるC5-7型,さらに手指伸展が障害されるC5-8型,手指の屈伸,内在筋が障害されるC8,T1型と上肢全体の麻痺をきたす全型に分類される.
B診断
・損傷高位診断には徒手筋力テスト,感覚障害範囲による理学所見が主に用いられ,損傷部位,病態の診断には電気生理学的検査,画像診断として脊髄造影CT,MRIが用いられる.
◆治療方針
neurapraxia,axonotmesisは保存療法,neurotmesisは絶対的手術適応であり,損傷部位,高位により治療方針が決定する.節後損傷に対しては損傷部位を跨いだ神経移植術が行われ,節前損傷に対しては肋間神経,副神経などによる神経移行,腱移行,遊離筋移植などが行われる.
Ⅱ.分娩麻痺
◆病態と診断
A病態
・分娩の際に児の肩または頭が産道の狭窄部に捕らえられた際,牽引するなどの外力を加えることにより腕神経叢の牽引が生じ上肢麻痺となる.
・発生頻度は0.5~3%/1,000人で,腕神経損傷同様の麻痺を呈するが,C5,6,7根の障害を呈する症例が多く,約20~30%の症例で回復がみられない.
B診断
・従命が不可能なため,運動の評価には時間をかけて注意深く患肢の動きを観察する.感覚の評価はルーレットによる軽い刺激を加えて,反応を観察する.
・画像診断には胸部,頸部X線,鎮静