今日の診療
治療指針

Ⅲ.消化器症状
木澤義之
(筑波大学医学医療系・緩和医療学・教授)
久永貴之
(筑波メディカルセンター病院・緩和医療科・診療科長/緩和ケアセンター長)
山口 崇
(神戸大学医学部附属病院・緩和支持治療科・特命教授)


A.悪心・嘔吐

1.病態

 悪心・嘔吐のがん患者における頻度は30~75%とされており,がんの病期や治療のどの段階でも起こり得る非常に頻度の高い症状である.

 身体症状としての悪心・嘔吐は苦痛を伴いQOLを低下させるが,同時に食事ができないことによりさまざまな問題が生じる.栄養不良に伴いがん治療の継続が困難となることもあり,ADLや免疫機能の低下につながることもある.また「食」を奪われることで,食事の楽しみを失い,家族のなかで疎外感を感じることや,死を意識せざるを得なくなることもある.そのため悪心・嘔吐の症状緩和は非常に重要である.

 悪心・嘔吐の病態生理は複雑で明確となっていない部分もあるが,さまざまな原因がヒスタミン,ムスカリン,ドパミン,セロトニン,ニューロキニンといった神経伝達物質の受容体を介して最終的に脳幹にある嘔吐中枢に伝わり,症状として発現するとされている(図2).

2.原因

 がん患者の場合,抗がん剤とオピオイドなどの薬剤が原因となることが多い.それ以外の原因も含めて,化学的原因,消化器系の原因,前庭系を含む中枢神経や精神的原因の大きく3つに分類できる(表8).また,がん患者の場合,複数の原因が組み合わさっていることや原因が明らかに同定できないことも多い.

3.治療

 原因に対する特異的な治療が可能な場合は行う.特に効果が期待できるものとしては,高Ca血症に対するゾレドロン酸(ゾメタ)などのビスホスホネート製剤,頭蓋内圧亢進に対するグリセオールやコルチコステロイド,薬剤性の場合,原因薬剤の中止・変更,感染症の場合の抗菌薬の変更,便秘の場合の排便コントロールなどが挙げられる.

 そのうえで想定される原因の病態に応じて制吐薬を選択することがよいとされている.

a.化学的原因 ドパミン受容体拮抗作用を主体とする抗精神病薬を第1に選択する.

Px処方例 1),2)のいずれかを用い

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