診療支援
治療

胸部外傷に対する開胸術の適応
indications for thoracotomy in chest trauma
岡本 健
(順天堂大学大学院教授・救急・災害医学)

GL改訂第2版外傷専門診療ガイドラインJETEC(2018)

GL改訂第6版外傷初期診療ガイドラインJATEC(2021)

治療のポイント

・蘇生的開胸術(RT)は,適応例に迅速に実施することで救命率の向上が見込まれる.

・胸腔ドレナージ後すぐに1,000mL以上の血液が吸引された血胸には,緊急開胸術を検討する.

・穿通性心外傷は,心タンポナーデの迅速な解除と損傷部の修復目的でRTの適応である.

◆病態と診断

A病態

・胸部には肺,心臓,大血管,食道などの重要臓器が集中している.強い外力による肺・心大血管損傷などは呼吸循環の破綻要因となり,緊急度・重症度ともに高い重篤な病態を引き起こすリスクがある.開胸術を要する頻度は20%以下だが,迅速かつ的確な手技が予後を大きく左右するため,その適応判断は重要である.

・胸部外傷に対する開胸術には,蘇生・救命目的で行う蘇生的開胸術(RT:resuscitative thoracotomy)と,損傷部の修復や機能改善など根本治療を目的とする開胸術に分けられる.

B適応

1.蘇生的開胸術(RT)

・来院時心肺停止の状態や心肺停止が切迫している場合に実施する開胸術であり,循環動態が不安定で手術室へ移動する時間的余裕すらない状況では救急初療室で開胸する(EDT/ERT:emergency department thoracotomy/emergency room thoracotomy).その目的は,①心タンポナーデの解除,②心・胸腔内損傷の止血,③大量空気塞栓への対処,④開胸心マッサージ,⑤胸部下行大動脈遮断である.単独の胸部穿通性外傷を除き,RT施行例の救命率は低く,特に来院時に生命徴候(体動,瞳孔・対光反射,眼球運動,自発呼吸,40回/分以上の心拍数)のない患者の予後はきわめて不良である.RTの適応として,米国のWestern Trauma Associatio

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