診療支援
患者説明

副腎クリーゼ
槙田紀子
(東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科・准教授)

1.現在の病状・病態

1)病態

 副腎クリーゼ(急性副腎不全症)とは,生命維持に不可欠なグルココルチコイド(glucocorticoid;GC)の絶対的または相対的な欠乏により,意識障害・血圧低下・高熱・低血糖・電解質異常などをきたす致死的な病態です1~4).症状・検査所見は非特異的なので(表1),まずは疑うことが重要です.診断確定前にすみやかに治療を開始します.

2)原因

 未診断,あるいはGC補充中の副腎不全が背景にあり,感染(特に胃腸炎),発熱,外傷,手術侵襲などコルチゾールの需要が増す病態が引き金となります.また,下垂体卒中,クッシング(Cushing)症候群術後,両側副腎出血,プレドニゾロンなどのGC製剤の中断など,急激にコルチゾール作用が低下する病態でも発症します.甲状腺ホルモンによるコルチゾールのクリアランス亢進(下垂体機能低下症における,GC補充に先んじた甲状腺ホルモン補充や甲状腺中毒症の合併)や,GCの代謝酵素を誘導する薬剤(リファンピシンやアゾール系抗真菌薬)が契機となることもあります.

3)病型分類

 副腎不全は,副腎皮質自体の病変による原発性副腎不全と,下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌不全による中枢性副腎不全に大別されます.原発性副腎不全には先天性のもの(21水酸化酵素欠損症など)と後天性のもの(自己免疫性など)がありますが,アジソン(Addison)病は後天性のものを指します.中枢性副腎不全で意外に多いのが医原性副腎不全です.GC製剤の内服に限らず,ステロイド吸入薬や外用薬(点眼,点鼻,塗布薬)によっても内因性のACTH分泌が抑制されるため,ストレスによるコルチゾールの需要増大に適切に反応できなくなります.

4)病型による病態の違い

 中枢性副腎不全ではアルドステロン分泌は維持されているため体液量低下はきたさず,ADH分泌・作用亢進により体液量は少し

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