病態
下垂体後葉からのバソプレシン(ADH)分泌不全
[参考]
間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂),2019
異常値
・多飲・多尿 1日尿量3L以上または40mL/kg以上,小児では2L/m2以上
・尿浸透圧 300mOsm/kg以下
・血清Na濃度 正常上限か上限をやや上回る
・血漿バソプレシン 血漿浸透圧または血清Na濃度と比較して相対的に低下し,5%高張食塩液負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)試験時,健常者の分泌範囲(図62図)から逸脱し,血漿浸透圧または血清Na高値でも分泌低下を認める
・バソプレシン負荷試験 バソプレシン(ピトレシン®注射液)5単位皮下注後,尿量は減少し,尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する
・水制限試験(3%の体重減少または6.5時間で終了) 尿量が減少せず,尿浸透圧は300mOsm/kg以下.水制限でショック状態になることがあり,必要な場合のみ実施する
・下垂体MRI T1強調画像での下垂体後葉輝度の低下.ただし,高齢者では本症でなくとも低下することがある
経過観察のための検査項目とその測定頻度
●血清Na,Cl [急性期]重症度および治療方針決定のため週2回 [慢性期]脱水症の指標として1カ月ごと
●血漿浸透圧 [急性期]重症度および治療方針決定のため週2回 [慢性期]治療後はデスモプレシン投与量の指標として1カ月ごと
診断・経過観察上のポイント
①多飲,多尿.特に冷水を多飲する.②視床下部障害で起こりやすく,性成熟の異常など視床下部症候群を伴うこともある.③原因疾患は鞍上部腫瘍が多いが,炎症性病変(自己免疫性を含む)でも起こりうる.④視床下部の口渇中枢が同時に障害された場合には,口渇・多飲が起こらず脱水症になりやすい.⑤尿崩症に副腎皮質不全を伴う場合には,尿量はさほど多くならない(masked DI).⑥下垂体や鞍上