診療支援
検査

砒素中毒
坂本 哲也
(帝京大学教授・救急医学/帝京大学附属病院・病院長)

病態

 砒素は昔から毒薬として殺人に用いられてきた.びらん性の化学兵器として三塩化砒素(ルイサイト)が日米で開発されたこともある.市販の防腐剤,殺鼠剤,殺蟻剤などに含有されているが,一般に急性中毒は事故や自殺目的が多い.歯科領域の治療で用いられる亜砒酸も毒性が強い.慢性中毒は途上国の井戸水汚染や職業病として問題になる.日本の事件では1955年6月の森永砒素ミルク事件,1998年7月の和歌山カレー事件,2003年3月の茨城県神栖での井戸水汚染が有名である


異常値

・爪,皮膚,毛髪などの砒素濃度 通常1ppm以下であるが,尿中濃度が正常化しても数カ月は残存するので中毒の証拠となる

・尿中砒素排泄量 通常50μg/日以下であるが,急性中毒の際には数千μg/日に及び,正常化に数週間を要する.ただし,毒性のない5価の有機砒素化合物を大量に含む海産物を食べただけでも数日は尿中の砒素排泄量は著明に増加する.この場合,無機砒素化合物だけを測定すれば25μg/日以下である

・血中砒素濃度 通常3μg/dL以下であり,急性中毒時には上昇するが,血中半減期は3~5日と短くバラツキが大きいので治療にはあまり役に立たない


経過観察のための検査項目とその測定頻度

●砒素濃度 組織中・尿中・血中砒素濃度の測定は緊急を要する急性期には結果が得られないことが多く,主として後日,法医学的な意義をもつことが多い.状況と症状から中毒が疑われたら治療を開始する

●血液像,血液生化学検査,心電図,胸部X線 急性中毒の重症例では毎日測定する


診断・経過観察上のポイント

①急性砒素中毒では診断は曝露歴と特徴的な症状による.腹痛,嘔吐,水様便などの消化器症状と循環血液量減少性ショック,心筋障害による心原性ショック,肺水腫は内服数十分後から出現する.その後,心臓の刺激伝導系異常,QT延長症候群,中枢神経症状としてせん妄,昏睡,末梢神経麻痺として

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