診療支援
治療

CO2ナルコーシス
CO2 narcosis
大槻穣治
(東京慈恵会医科大学准教授・救急医学)

A.疾患・病態の概要

●一般的にPaO2が80Torr以下の状態を低酸素血症(hypoxia),PaCO2が45Torr以上の状態を高二酸化炭素血症(hypercapnia)と定義する.

●呼吸の化学的調節は中枢性化学受容器と末梢性化学受容器により調節されている.中枢性化学受容器は延髄にあり脳脊髄液に接し,そのpHの低下(水素イオン濃度の上昇)を感知すると呼吸を促進する.末梢性化学受容器は頸動脈洞にある頸動脈小体(carotid body)と大動脈弓にある大動脈小体(aortic body)があり,動脈血酸素分圧(PaO2)の低下を感知して換気を増大させる.通常,呼吸は末梢性化学受容器より中枢性化学受容器の影響をより大きく受ける.すなわち,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇するとそのCO2が脳脊髄液に溶解し脳血液関門を通過する.このCO2が水と反応し水素イオンと重炭酸イオンとなり(CO2+H2O⇒H2CO3⇒H+HCO3),この水素イオン増加により脳脊髄液のpHが低下,中枢性化学受容器がこれを感知し呼吸が促進される.しかし,慢性呼吸不全など常にPaCO2が高い状態の患者ではこの中枢性化学受容器が高PaCO2の状態に慣れてしまい,PaCO2が上昇しても呼吸が促進されない.この状態では末梢性化学受容器がPaO2の低下を感知し刺激されることにより呼吸は促進される.この様な患者に高濃度の酸素を投与するとPaO2が上昇し呼吸は抑制され肺胞低換気となるため,PaCO2はさらに上昇し重度の呼吸性アシドーシスとなり意識障害をきたす.これをCO2ナルコーシス(narcosis:麻酔)と呼ぶ.

●意識障害の原因は従来CO2の中枢神経への直接作用によると言われていたが,詳細な機序は明らかでない.


B.最初の処置

①慢性呼吸不全をきたす既往歴を持つ意識障害患者ではまずCO2ナルコーシスを疑う.すで

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