A.疾患の概要
●概観:糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と高浸透圧性非ケトン性昏睡〔この名称は病態を正確に表現していないため,最近では高浸透圧性高血糖状態(HHS)と呼ばれる.ここでは後者を用いる〕は,ともに糖尿病の重篤な合併症である.発生頻度はDKAの方が高い.インスリンの発見前には100%に近かった死亡率は,治療法の進歩によりDKAでは数%にまで低下したが,基礎疾患を有する高齢者が多いHHSでは依然20%弱を示している.
●病態:インスリンの不足が根底にある.ブドウ糖利用障害,糖新生亢進,グリコーゲン分解亢進による高血糖と,血漿浸透圧上昇がみられる.DKAではグルカゴンなどのいわゆるcounterregulatory hormoneの過剰が明らかである.HHSでは高ナトリウム血症と高窒素血症が加わり,血漿浸透圧の上昇が特に著しい.浸透圧利尿と経口水分摂取困難,嘔吐により水分と電解質の著しい喪失をきたす.この脱水が最大の問題となる.DKAでは脂肪酸の酸化に伴って発生するケトン体,とくにアセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸の蓄積による代謝性アシドーシスが加わる.
●DKAとHHSの特徴を表1図に示す.DKAとHHSの病態には類似点が多く,どちらとも判断し難い例もあるが,緊急治療は同じなので,両者の厳密な鑑別よりも迅速な処置を心がける.
B.最初の処置
1一般的処置
静脈路確保は必須である.意識障害が高度な例では気管挿管で気道を確保する.心電図モニターを装着し,尿量測定のために膀胱カテーテルを留置する.血糖値,血清電解質を含む血液検査と,尿一般検査を緊急で提出する.HHSでみられる痙攣にフェニトイン薬(アレビアチン®)は禁忌であり,通常の抗痙攣薬も無効とされる.
2脱水の補正
ショック状態なら生理食塩水を全開で投与し,まずショックからの離脱を図る.ショックでない例には生理食塩水500mL/時
関連リンク
- 治療薬マニュアル2024/フェニトイン《アレビアチン ヒダントール》
- 治療薬マニュアル2024/塩化カリウム《KCL補正液》
- 治療薬マニュアル2024/塩化カリウム《K.C.L. 塩化カリウム》
- 治療薬マニュアル2024/ブドウ糖《ブドウ糖 ブドウ糖》
- ジェネラリストのための内科診断リファレンス/6 糖尿病性昏睡
- 今日の治療指針2023年版/バソプレシン分泌過剰症(SIADH)
- 標準的医療説明/糖尿病ケトアシドーシス
- 標準的医療説明/低血糖昏睡
- 今日の救急治療指針 第2版/低血糖症
- 今日の救急治療指針 第2版/酸塩基平衡異常
- 今日の救急治療指針 第2版/電解質異常
- 今日の小児治療指針 第17版/低血糖,インスリン過剰症
- 今日の小児治療指針 第17版/糖尿病性ケトアシドーシス