診療支援
治療

甲状腺クリーゼ
thyrotoxic crisis
岡田保誠
(公立昭和病院・救命救急センター長)

A.疾患・病態の概要

●甲状腺クリーゼとは,甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し,これになんらかの誘因が加わった時に,甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥り,重篤な全身状態に至ったものをいう.

●一般に,甲状腺からは主としてT4が分泌され,分泌されたT4は脱ヨード反応でT3にかわる.T4もT3もそのほとんどが蛋白と結合しており不活性であり,ごく一部が遊離してFT4とFT3となりホルモン活性を発揮している.ここでいうところの甲状腺中毒症とは,FT3,FT4が高値である状態をいう.甲状腺クリーゼの原因となる甲状腺基礎疾患としては,破壊性甲状腺中毒症などの報告もあるものの,ほとんどはBasedow病である.甲状腺クリーゼの誘因には,甲状腺疾患と直接関連した誘因と全身的な誘因の2種類がある.前者としては,抗甲状腺薬の服用不規則や中断などがある.後者としては,感染症,手術,外傷,妊娠・分娩などがある.


B.病態の把握・診断の進め方

①甲状腺クリーゼの臨床徴候としては,中枢神経症状(意識障害,不穏など),発熱,頻脈,心不全症状(呼吸困難など),消化器症状(嘔吐,下痢,黄疸など)があるが,非特異的である.

②Basedow病の患者あるいはBasedow病を疑わせる臨床徴候を持った患者,甲状腺腫のある患者が重篤な状態で救急搬送されてきたら,甲状腺クリーゼを念頭に置くことが大切である.それらの徴候をもたらす他の原因は考えられないか,甲状腺クリーゼに臨床症状は合致するか,甲状腺クリーゼをもたらす誘因はあったのか,至急検討.

③FT3やFT4の測定結果はすぐには判明しないことも多いので,臨床症状や身体所見から甲状腺クリーゼを疑ったら,次に甲状腺の超音波検査を行う.Basedow病による甲状腺クリーゼであれば,甲状腺のカラードプ

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