診療支援
治療

胸部外傷
chest injury
加地正人
(東京医科歯科大学附属病院・救命救急センター副センター長)

A.胸部外傷の病態とポイント

●胸部にはvital organである肺・心・大血管が存在するために,短時間で致命的となることがある.

●胸部外傷は,気道の異常(A),呼吸の異常(B),循環の異常(C),中枢神経の異常(D)のいずれも起こりうる.

●致命的となりうる重篤な病態は,低酸素血症,閉塞性ショック,出血性ショック,まれに鈍的心損傷からの心原性ショックである.

●胸部外傷の約80%は,疼痛制御や胸腔ドレナージ,気管挿管を含めた呼吸管理によって治療できる.15%が待機的開胸術を要し,5%が緊急開胸術を必要とする.

●初期診療は,JATECガイドラインにのっとり,まず生理学的徴候に視点を置いたprimary survey(PS)と蘇生を行い,生理学的な安定が得られればsecondary survey(SS)で解剖学的な観点から治療の必要な損傷を検索する.

●primary surveyにおいて,生命危機に直結する短時間で致命的となりうる胸部外傷は,①気道閉塞,②緊張性気胸,③開放性気胸,④フレイルチェスト,⑤大量血胸,⑥心タンポナーデなどである.

●secondary surveyにおいて,見逃すと生命を脅かしうる胸部外傷は,①気胸,②血胸,③肺挫傷,④気管・気管支損傷,⑤鈍的心損傷,⑥大動脈損傷,⑦横隔膜損傷,⑧食道損傷,などである.


B.初期診療

 初期診療は,PSによって身体所見とFAST(focused assessment with sonography for trauma),胸部X線写真より診断すべき損傷を検索し,同時に蘇生処置を行う.PSと蘇生処置でバイタルサインの安定が得られればSSを施行し,各種検査を利用した損傷検索を行う.詳細は「JATEC概説」()を参照.

1胸部外傷で留意するポイント

①臓器損傷メカニズムは,直接外力,内圧の急上昇,急減速による慣性からの剪断力(例:大

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