Ⅰ.有機リン
A.代表的な物質と病態
①有機リンは殺虫剤として広く使用されている.代表的物質として,マラソン(マラチオン®),DDVP(ジクロルボス®),ダイアジノン(ダイアジン®)などがある.
②有機リンはアセチルコリンエステラーゼ(ChE)の阻害薬であり,ChEと容易に結合することにより,ChEのアセチルコリン分解能を低下させる.そのためコリン作動性神経終末にアセチルコリンが過剰に蓄積し,表1図に示すような自律神経系を中心とした様々な症状を呈しうる.
③実際の事例での症状は,交感神経系症状が優位な場合も,副交感神経系症状が優位な場合もありうる.症状は,普通摂取後2時間以内に現れ,5日以内に消退する.
④直接死因は呼吸不全(呼吸中枢の麻痺,分泌物増加に伴う気管支痙攣,呼吸筋麻痺)が多い.摂取後2~6日して,脳神経麻痺,四肢の近位筋麻痺,呼吸麻痺を起こすことがあり,中間期症候群と呼ばれる.また急性期(1~3週間)を過ぎてから,下肢の知覚異常,しびれ,運動麻痺(下肢末端から始まり,次第に体幹,さらに上肢へ広がる)が生じることがあり,遅発性神経障害と呼ばれる.
B.重症度判断
①軽症:唾液分泌過多,流涙,気道分泌物増加,多汗,軽度の縮瞳,悪心・嘔吐,下痢,腹痛,全身倦怠感,頭痛,めまい,胸部圧迫感,頻脈,不安感
②中等症:上記症状に加え,縮瞳,筋線維性攣縮,言語障害,歩行困難,視力減弱,興奮,錯乱,急性膵炎,徐脈,房室ブロック
③重症:高度の意識障害,著明な縮瞳(ピンポイント瞳孔),対光反射消失,全身痙攣,尿失禁,呼吸困難,肺水腫,ショック
④血清コリンエステラーゼの値は,重症度と相関し,また血清コリンエステラーゼの低下を見た場合は,有機リン中毒を強く疑う.しかし血清コリンエステラーゼはいわゆる偽性コリンエステラーゼと呼ばれ,神経終末でアセチルコリン代謝に直接関与している血球(真性)コリンエステラ
関連リンク
- 治療薬マニュアル2024/硫酸マグネシウム水和物(略称:硫苦,硫麻)《硫酸マグネシウム》
- 治療薬マニュアル2024/クエン酸マグネシウム《マグコロール》
- 治療薬マニュアル2024/アトロピン硫酸塩水和物《硫酸アトロピン アトロピン硫酸塩 アトロピン》
- 治療薬マニュアル2024/アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン《ガストログラフイン経口・注腸用》
- 治療薬マニュアル2024/ポリスチレンスルホン酸ナトリウム《ケイキサレート》
- 治療薬マニュアル2024/乳酸リンゲル液《ソルラクト ハルトマン ラクテック ラクトリンゲル液》
- 治療薬マニュアル2024/メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム《ソル・メドロール》
- 治療薬マニュアル2024/ジアゼパム《セルシン ホリゾン》
- 治療薬マニュアル2024/ドパミン塩酸塩《イノバン》
- 今日の救急治療指針 第2版/家庭用品による中毒(化粧品,石鹸,洗浄剤,義歯洗浄剤,文具品,保冷剤,他)
- 今日の治療指針2023年版/有機リン・カーバメイト中毒
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[12]アスピリン
- 今日の治療指針2023年版/シアン中毒
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[39]水銀元素,無機水銀化合物
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[41]鉛
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[43]硫化水素
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[46]水溶性の低い刺激性ガス
- 急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版/[47]シアン化合物
- 新臨床内科学 第10版/3 メタノール,エチレングリコール