A.代表的な物質と病態
工業用品の種類は膨大である.全ての情報を把握しておくことは不可能であり,その中毒の病態も物質によって様々である.毒性物質を扱う職場には化学物質安全性(製品安全)データシートが常備されており,労災事故の際には毒性や症状に関して参考となる.ただし,特異的治療に関する医学的情報には乏しいので,Webや中毒情報センターなどで別途調べる必要がある.
また,自殺企図や犯罪で用いられた場合には,薬物中毒であることすら認識されなかったり,正確な物質名の把握が困難なことも少なくない.
原因不明の意識障害,循環障害,代謝異常などでは,常に薬物中毒の可能性を念頭に置く必要がある.しかし,特異的治療が知られている物質はごくわずかであり,初期治療の中心は除染とバイタルサインの維持(ABCの確認と蘇生)であることが多い.比較的頻度の高い工業用品中毒の症状と治療を別に列挙するが,他項に含まれる工業用品は割愛し,慢性中毒についても言及しない.
B.重症度判断
①最初の重症度(緊急度)判断はバイタルサインの異常の程度によって行われる.明らかな異常が認められれば,最重症と判断して速やかにバイタルサインの維持に努め,維持療法を行う.
②しかし,中毒物質の中には遅発性に重篤な症状を呈するものも存在する.十分な情報を持たない中毒物質に対しては,当初のバイタルサインのみから安易に軽症と判断せず,情報収集に努めつつ慎重に経過を追う.
③また,重金属類のように遅発性の神経症状を呈するものがあり,経過を追う必要がある.
C.特に推奨すべき標準治療
1体表の除染と二次被害の予防
①経皮的接触や揮発物の吸入によって障害をきたす物質では,まず体表汚染の除去が必要である.救急隊によって搬送された場合には,すでに除染されていることが多いが,他の方法による来院では注意が必要である.汚染した衣類は除去して,ビニール袋などに二重
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