診療支援
治療

胸腔穿刺法と胸腔ドレナージ法
thoracocentesis and tube thoracotomy
浅井康文
(札幌医科大学附属病院教授・高度救命救急センター部長)

 胸腔内には生理的にごく少量の胸水が存在するが,通常はほとんどの容積を肺が占めている.胸腔内は腹腔内と異なり,胸郭および横隔膜の呼吸性運動が肺の換気に伝わるように陰圧に保たれている.最初に穿刺を行ってから胸腔ドレナージを行うか,最初から胸腔ドレナージを行うかは,患者の状態・施設の状況・個人の能力に応じて選択する.


A.適応,合併症

1適応

①胸腔穿刺は,胸腔内に貯留した空気や液体などの診断および治療に用いる.通常は胸部X線で,立位または坐位で正面像と側面像をチェックした後に行う.

②胸腔穿刺の第1の緊急適応は緊張性気胸に対してである.心停止の切迫した状態を回避し,次の胸腔ドレナージまでの時間稼ぎを行う.緊張性気胸の診断は,気胸の一般的所見(胸郭の左右差,胸郭運動の左右差,患側呼吸音の減弱,打診上の鼓音,肋骨骨折の轢音,皮下気腫など)に加え,ショックとその他の特徴的な身体所見(頸静脈怒張,気管・喉頭の偏位など)で行うのが原則である.タイミングとしては,外傷の初期診療の段階のprimary surveyとresuscitationのステップにおいて,呼吸や循環の異常(呼吸不全やショック)の原因が緊張性気胸であると判断したときであり,救命のため胸部X線撮影なしに,胸腔穿刺を施行する.しかしショックとはいっても,循環動態が許容できる範囲にある場合,とりわけ胸腔内の癒着が予想される場合には,胸部X線写真の結果を待って穿刺を実施することもある1,2)

③緊張性気胸以外の,気胸・血気胸・血胸・膿胸の滲出液のために呼吸機能が障害され感染の恐れがある場合に,ドレナージにより肺の再膨張を図る3)

2合併症

 肋間動脈損傷,肺損傷がある.

①肋間動静脈が走行している肋骨下縁を避け,深く刺しすぎて肺を損傷しないように注意する(図1).

②また癒着時の肺損傷に注意せねばならない.第6肋間以下のドレナージや横隔膜

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