消化管内視鏡はわが国において非常に発展を遂げた検査法であり,上部消化管内視鏡は消化管内視鏡専門医でなくても広く行われている.近年は小腸内視鏡も積極的に行われるようになったが,緊急ではまだ一般的ではないこと,小腸疾患に緊急性を要するものが少ないことより,この項では言及しない.
救急医療における消化管内視鏡は消化管出血,消化管異物に対して診断と治療を同時にできる利点を有しており,第一選択とされることが多い.しかし,消化管出血によるショック状態でかつ大量輸液を行ってもバイタルサインの改善が得られない場合,内視鏡は行うべきではない.食道静脈瘤破裂による出血でなければ緊急開腹手術を選択すべきである.
また消化管穿孔に対して内視鏡を行う場合,その後の開腹手術を前提とする必要がある.
ショック状態で内視鏡を行うことは非常に危険である.内視鏡的診断・治療にこだわりすぎることなく,患者のバイタルサインを常にモニタリングしながら,いつでも検査を中断して手術に踏み切る判断を求められる.したがって,状態の悪い患者を内視鏡的に治療する場合は,即外科手術に移行できる体制が必要である.その環境が整わない場合には,しかるべき施設に転送すべきである.
本項では,緊急内視鏡を行う上での全身管理と適応・手技上の注意点について述べるが,器具の準備と処置の具体的方法については成書を参照されたい.
A.全身管理
緊急内視鏡を施行する上での条件が2つある.
①第一に患者の全身状態を正確に把握し,検査中に厳重にバイタルサインのモニタリングを行うこと.状態が多少でも悪ければ,ECGモニター,SpO2経皮酸素飽和度モニター,自動血圧計を装着して検査を行う.これらに異常が認められたらバイタルサイン安定化を重視すべきであり,検査の中止を躊躇してはいけない.
②第二にバイタルサインの悪化に対して即対応できる準備をしておくこと.可能なら
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