今日の診療
内科診断学

失神
小林 祥泰


失神とは

■定義

 失神(syncope)とは元来一過性の全脳虚血により一時的に意識を失う現象で,一般には数秒〜数分で回復するものを指していた.しかし,この定義はあいまいとなり,現在ではもっと広い意味の一過性意識消失をいうことが多い.すなわち,全脳虚血だけでなく,てんかんによる欠神発作,低血糖発作や心因性失神なども含まれる.

 完全な意識消失には至らないふらっとしためまい感のような発作は失神前状態(presyncope)と呼ばれている.また,起立性低血圧による脳虚血などでは,倒れれば脳への血流が回復するので意識障害が数分以上続くことはまずない.一方,心原性失神などでは必ずしも脳への血流がすぐに回復するとは限らないので,発症時には失神から昏睡まで連続的な変化としてとらえる必要がある.

■患者の訴え方

 失神が医師の目の前で起こることは稀で,多くの場合,病歴から推測することになる.患者も失神している間は記憶がないので,失神前後の状態と失神の持続時間が問題となる.「気分が悪くなって目の前が暗くなり気を失った」というのはいわゆる脳貧血の特徴である.ふっと意識がとぎれるような感じは失神前状態で,てんかん発作の一種である可能性がある.胸痛や頭痛などの前駆症状は診断上重要である.

■一般住民が失神を訴える頻度

 患者が失神を訴える頻度といっても,その患者の基礎疾患によって大きく異なるので,一般住民における米国の疫学研究のデータを参考までに示す.

 Framingham心臓研究N. Engl. J. Med., 347:878-885, 2002)では,7,814人の住民の平均17年の追跡で822件の失神が観察され,初回の失神の頻度は6.2/1,000人/年であった.頻度の多い原因は順に迷走神経反射性(21.2%),心臓性(9.5%),起立性(9.4%)であり,原因不明は36.6%であったとされている.

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