今日の診療
内科診断学

貧血
奈良 信雄


貧血とは

■定義

 末梢血液中の赤血球数(RBC),ヘモグロビン(Hb)濃度あるいはヘマトクリット(Ht)値が低下した状態を貧血(anemia)という.一般には成人男性でHbが13g/dL未満,成人女性で12g/dL未満,高齢者および妊婦では11g/dL未満を貧血とする〔WHOより〕

■患者の訴え方

 貧血患者では,Hbの低下による低酸素血症に基づく症候,貧血が高度になって心不全を起こすことによる症候,そして貧血を起こした原疾患そのものによる症候を訴える.また,貧血の定義が検査値によるので,自覚症状がなく,健診などで貧血を指摘されて来院することもある.

●低酸素血症による症候

 末梢血液中のHb濃度が減少する結果として末梢組織で低酸素血症をきたし,易疲労感,めまい,皮膚・粘膜の蒼白などの症候が現れる.「仕事の能率が上がらない」「なんとなく気力がない」などと訴えることがある.

●心不全による症候

 長期間にわたって貧血が続くと慢性心不全を引き起こし,そのために労作時の動悸,息切れ,浮腫が現れるようになる.

●貧血をきたした原疾患による症候

 鉄欠乏性貧血では口角炎,舌乳頭萎縮,嚥下障害〔Plummer-Vinson(プランマー・ビンソン)症候群〕,スプーン状爪,溶血性貧血では黄疸,悪性貧血では舌の発赤と乳頭萎縮〔Hunter(ハンター)舌炎〕,消化器症状,深部感覚障害などを訴える.

■患者が貧血を訴える頻度

 貧血を主訴として訴える頻度は,入院患者の約0.3%,外来患者の約3.8%である.しかし,実際に貧血のある患者数はもっと多く,貧血のなかでも頻度の高い鉄欠乏性貧血は全女性の約8.5%,潜在的な鉄欠乏は女性の1/3にもあるといわれる.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

(図3-44)

 貧血は,赤血球の産生低下,破壊の亢進,出血による喪失,そして体内での分布異常によって発生する(表3-52).Hb

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