今日の診療
内科診断学

甲状腺腫
飯高 誠


甲状腺腫とは

■定義

 甲状腺腫(goiterまたはstruma)とは,甲状腺が腫大した状態をいう.正常の甲状腺は,視診では認められず,触診でも触れにくい.触診で触知すれば,甲状腺腫があると考えてよい.甲状腺腫には,びまん性甲状腺腫と結節性甲状腺腫がある.

■患者の訴え方

 「首が腫れた」という訴えが多い.患者自身で気づく場合と,他人に指摘される場合がある.甲状腺腫を起こす原因疾患により,甲状腺ホルモンに異常をきたす場合と,そうでない場合がある.前者では,甲状腺ホルモン異常に伴う諸症状を訴えることが多い.

■患者が甲状腺腫を訴える頻度

 来院する橋本病患者では,90%以上が甲状腺腫を自覚している.

 Basedow(バセドウ)病〔Graves(グレーブス)病〕患者では,女性で約15〜30%,男性で約3〜8%が甲状腺腫を自覚しており,男性のほうが甲状腺腫に気づきにくいことがわかる.

 結節性甲状腺腫の場合は,そのこと自体が主訴であることが多いため,ほぼ100%の患者が頸部腫瘤を訴える.

 注意すべき点は,甲状腺腫を自覚していない甲状腺疾患患者が多いということである.最近の疫学調査では,一般住民の17%もの人がなんらかの甲状腺疾患を有していたと報告されている.また一般外来でもていねいに診察すると,男性で約4%,女性では約19%もの甲状腺疾患患者が見つかったという報告がある.甲状腺腫を訴えなくとも,甲状腺の触診をていねいに行い,甲状腺疾患を見逃さないようにすることが肝要である.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

(図3-152)

 びまん性甲状腺腫と結節性甲状腺腫とに分けて考える.

 びまん性甲状腺腫は,甲状腺濾胞上皮細胞ないし血管を含む結合組織の増殖によることが多い.すなわち,濾胞上皮細胞の増殖を刺激する甲状腺刺激ホルモン(TSH)ないしTSH様作用を有するTSHレセプター抗体,ヒト絨毛性ゴナドトロピ

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