今日の診療
内科診断学

呼吸困難
海老名 雅仁


呼吸困難とは

■定義

 呼吸困難(dyspnea)とは,不快感や努力感を伴う呼吸運動の自覚を指す.この自覚に対する本人の身体的反応や心因反応も含む.自覚症状なので,客観的評価はできない.“多(頻)呼吸”,“過呼吸(呼吸亢進)”,“過換気”は客観的な評価が可能な他覚症状であり,これらの用語によっては呼吸困難の有無や程度は定義されない.

 運動などで換気を自覚しても,不快感や努力感を伴わない場合,あるいは不快感や努力感を伴っていてもその程度が労作に見合った一過性のものと自覚できるような場合は,呼吸困難としない.しかし,予備の呼吸床が減少している特発性肺線維症や慢性閉塞性肺疾患では,安静時には感じない呼吸困難を簡単な日常生活でも頻繁に自覚することに注意を要する.

■患者の訴え方

 「空気が足りない」「息がつまる」「胸(肺)が膨らまない」が訴えの典型例である.それぞれの訴えの場合,呼吸困難はそれぞれ異なった機構で引き起こされているとされ,「空気が足りない」は化学受容器からの刺激に,「息がつまる」は気道収縮に伴う肺の受容器の刺激に,「胸(肺)が膨らまない」は呼吸中枢からの呼吸運動の命令の増加に由来するとされる.

■患者が呼吸困難を訴える頻度

 Framingham Study〔1987〕では,各年齢(37〜70歳),性別で6〜27%に呼吸困難があったと報告されている.また,市中病院での別の調査では救急外来の2.7%が呼吸困難を訴えて来院したという.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

(図3-177)

●呼吸運動の制御機構

 呼吸運動は,中枢神経系による制御を受けている.遠心路の運動神経は延髄から出て呼吸筋に至り,胸郭を膨張させて換気を始める命令を出す.

 この呼吸運動を制御するためのセンサーには,中枢(延髄)や末梢の化学受容器,肺や気道の機械受容器(刺激受容器,伸展受容器,J受容器),および呼吸筋の筋紡錘

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