今日の診療
内科診断学

下血・血便
加藤 元嗣
浅香 正博


下血・血便とは

■定義

 下血・血便とは,消化管内に出血した血液の混じった便が肛門より排出されることをいう.

 一般に消化管出血は,Treitz(トライツ)靱帯より口側からの出血による上部消化管出血,それより肛門側からの下部消化管出血に分けられる.吐血は,上部消化管出血による血液が口腔より吐出されることであり,Treitz靱帯より肛門側の空腸以下での出血によることはきわめて稀である.一方,下血・血便は上部,下部すべての消化管出血で起こりうる.

 下血は,黒色のタール便(melena)のみに使用し,鮮血に近い血便(hematochezia または bloody stool)と区別して使用する(図3-245).さらに,消化管出血には肉眼的に診断できる下血・血便のほか,糞便の化学的免疫学的血液反応によって検出される潜血(occult bleeding)がある.しかし,潜血を下血・血便とは呼ばない.

■患者の訴え方

 患者は,「真っ赤な便が出た」「海苔のような色の便が出た」「イカ墨のような真っ黒い便が出た」などと訴える.また,出血の原因となる種々の疾患の症状(腹痛,腹部不快感,嘔吐,便通異常など)を伴うことが多い.

 また,急激な多量出血によりショックに陥っている場合もあり,「めまい,立ちくらみがする」「冷や汗が出る」「呼吸が苦しい」「胸がドキドキする」などの症状を訴えることもある.

■患者が下血・血便を訴える頻度

 外来診療において,下血・血便を主訴に来院する患者の割合は施設の特徴により差がある.われわれの施設で年間に施行される上部・下部消化管内視鏡検査中,消化管出血疑いで緊急内視鏡検査を施行された患者の割合をみても3〜4%程度であり,救急搬送患者を多く引き受ける施設では,さらに遭遇する頻度は高くなる.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

 消化管出血の病態は,①多量出血に伴う生体の反応(ショック状態

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